日本美術史に誰も引いたことのなかった補助線を引き、いきいきと魅せた。うーんすごい本だ!

日本画家である山口晃氏の、かなりイカシタ日本美術論。

この画家の描くものも、細かく奥深く、興味深く…つまり相当面白いのですが、そうゆうヒトは、同じフィールドの「美術」を語らせても唯一無二に面白いのである。

つまりこの本。

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ヘンな日本美術史』山口晃 祥伝社

実は、いつものように書棚に積読。
先日「そうだ、こんな本を買ってあったんだわ!」
と気が付いて、最初のページを読むやいなや、もうもうもうもう、夢中になって読破してしまいました。

(っうか、私は、いったん熟成させないと読めないんですかね。買ってすぐに読めよなぁ。もう中古本が安くでているじゃあありませんかぁ…)

あっ!そうそう。
“山口晃”と聞いてピンと来ない方は、こちらを見てください!→ほぼ日のインタビュー(冒頭の絵が彼の作品です)

知ってる方多いんじゃあないでしょうか?

「鳥獣戯画」から始まって、「洛中洛外図」、雪舟…そして、明治の日本絵師たち。

取り上げられる絵画は、東京在住かつ、美術館&博物館好きならば、ほぼ見たことがあるんじゃあないかと思えるモノばかり。

そして、それらを観賞する前に、なんだってこの本がなかったかなぁ~!!

と思わずガッカリしまくるぐらい、そこに書かれている豊富で正統派な知識。
…一例を言えば、それらが描かれた時代的背景とか、作者がこだわったであろう点や時代的技量的限界とか。

そして、そこを土台にするからこそ、外さないユニークな見解。

それらを、専門家であるにもかかわらず、素人にも届くように簡潔明快にバシッ!と言って見せる。
そのスタイルが、ずーっと昔の作者に、楽しみつつツッコミを入れてるみたいで、読者は、時々ほくそえんだり、吹き出したり、にんまりしたりでも忙しい。

そして、その作品の背景にある「何かを知る」ことで、今まで全然気にもしていなかった重要な魅力が立ち上がる、新しいコトが解る快感を得るのである。

すごいなぁ。きれい。大きい! こまかい!
…と素朴に眺めていたのみの美術作品。
あるいは、「それって知ってる、有名な日本絵画でしょ」
とほぼ無視していた作品までも、そこはかとなく深淵に触れたような気にもなって、過去の絵師たちに親しみすら湧いてくる。

なんだか、知ってるヒトが書いたかのような慕わしさを錯覚するようになったりもして…。

ああ、不思議です。

ああああ、うーん。
つまり、もう一度、ぜんぶホンモノをみたいぜよぉ!

特に惜しむべきは…

昨年末に見に行ったトーハク特別展「京都―洛中洛外図と障壁画の美」。
そこには、本書で取り上げられた「洛中洛外図屏風 上杉本」も「洛中洛外図屏風 舟木本」も懇切丁寧な解説企画付きで展示されておりました。

そして、私は、2回もそれを見に行った。

そして、そして、私はもうすでに本書を持っていた!

なのに、ああ、読んでませんでした。
読んでいたなら、もっとずっと深く楽しめましたものをっ!

以後、本は買ったらその日のうちに読み始めようと、深く反省する次第です。

…って、あらら、ちらっと脱線(苦笑)。

目次とともに、登場した作品を全部書き出してみました。

※( )内は、私のかってなひとりごとです。

第1章 日本の古い絵―絵と絵師の幸せな関係
「鳥獣戯画」(甲巻・乙巻・丙巻・丁巻)
「紙本白描隆房郷艶詞絵巻」「尹大納言絵巻」「枕草子絵」(すべて「白描画」を語るために登場します)
「一遍聖絵 (絹本)」
「伊勢物語絵巻」(図版はありません)
「伝源頼朝像」

第2章 こけつまろびつの画聖誕生―雪舟の冒険
「破墨山水図」
「秋冬山水図」
「慧可断臂図(えかだんぴず)」(敬意を込めて「バカっぽい絵」とかいうツッコミとともに登場します)
「益田兼堯(ますだかねたか)像」(こんどは、この作品は「肖像画のダブルスタンダード」だとか)
「天橋立図」

第3章 絵の空間に入り込む―「洛中洛外図」
「舟木本」「杉本本」「高津本」(グーグルマップに負けないとコメント…でもその意味がなんとなく分かります。)

第4章 日本のヘンな絵―デッサンなんかクソくらえ
「松姫物語絵巻」(へたうまではなくて下手くそな絵の味わい…これは著者の褒め言葉ですが…)
「彦根屏風」(デッサンとは違う写実のカタチを解説)
「伝 岩佐又兵衛勝似(かつもち)」(岩佐又兵衛の作品を語るうえでとりあげ、「あごの下をとってから来い」とか「人物が異様にキャラ立ちしてる」とか)
丸山応挙「牡丹孔雀図」(応挙と若冲の話。ああそうなんだぁ!と膝を打ちました)
「光明寺本尊」「六道絵」(信仰パワーのすごさ…というスゴイ見解)

第5章 やがてかなしき明治画壇―美術史なんかクソくらえ
(この章が個人的には、いちばんおもしろかった。というか、時代が近いくせに知らないことだらけ。ああそうなんだぁと何回も思いました。)

河鍋暁斎「龍頭観音像」「大和美人図」(河鍋暁斎の何が「一人オールジャパン」なのかについて)
月岡芳年「芳涼閣両雄動」「当勢西優妓」(写実と浮世絵の両立…このタイトルに惹かれますね)
川村清雄「梅に雀」(章タイトルは「生き埋めにされてきた画家たち」とか「西洋画を壊して日本のものとした清雄」とか、最後までセンセーショナルです)