宮部みゆき、渾身の冒険群像活劇だそうだけど、うーん、時代小説という枠を借りたファンタジーかな。

宮部みゆきの『荒神』を読了。

荒神 表紙

これって、新聞小説だったんだってねぇ…。

つまり、初出は、一挙に読めなかったってことだよね。
そりゃ恐ろしいっ!
私だったらもうこんがらかってしまうかも。

というぐらい、登場人物が入り組んで、一気に集中して読まないと途中でわからなくなる懸念あり。
だから、そうと気づかず、単行本にまとまったのち読んで正解でした。

加えて、東北の小さな村が、ある日壊滅してしまうほどの異変が起こる。
…ともうしょっぱなからスタートダッシュを切って始まる物語は、何をされておき読者を集中させる魅力満載。

いゃ、マジで完結した後に読み始めるんでよかったよ
じゃないと、続きは明日って、えーっそりゃ殺生なぁっ!
新聞休刊日なんて、どう過ごせばいいのかしら
…となりかねなかったはずでした。

時は、元禄時代、徳川綱吉の治世。

舞台は、東北の山あいで隣り合いつついがみ合う「長津野藩」と「香山藩」。
故あって、戦乱の時代以降対立を続けていのだが、「長津野藩の藩主側近・曽谷弾正の専横」に、「香山藩の民が恐れる」という構図が近しい。

ある日、香山藩の小村が怪物に襲われて、一夜にして壊滅状態。
残された村民は、なぜか、恐怖していた長津野藩側の逃れていったらしい…。

もしや逃散?

いや、曽谷弾正による大規模なヒト狩りであろうか?

一方、香山藩では、藩主寵愛の側室の不審死。
藩内は、さまざまに不穏な気配に覆われてゆく…。

登場人物が多いのだが、それぞれの魅力にまず惹かれる

恐怖の対象として描かれる長津野藩主側近・弾正、一方、良心と優しさの象徴として書かれたかのような双子の妹・朱音

物語の軸は、このふたり。
そこに、朱音を慕う村人と用心棒・宗栄とか、異変から逃れてきた香山藩の山里に住む少年・蓑吉。

香山藩小姓・直弥、謎の絵師・圓秀…うーんと、あと誰だっけ?

と、大勢のキャスティングで取り掛かる長編物語なんで、登場人物は、メモしながら進むのがいいかもしれない。
すると、ますます、際立ってくるそれぞれの個性が興味深い。

あたりまえなんだろうけど、ここまでキャラをかき分ける筆力ってすごいよなぁ…と。

そこに、江戸時代の山の民たちの信仰のカタチやら
薬草を知り、薬を作る村人の生業やら
死者に手向ける絵馬の話

…などなどが、ほどよく織り込まれて、そんな小さなディテールが物語にさらなる深みをもたらしてもいる。

物の怪は、神がもたらしたものではなくて…。

タイトルは、「荒神」とあれば、最後は、カミサマが登場なさるか?
そんな風に勘違いしてしまったけれど、登場する物の怪は、ヒトの弱さと恐れが作り育んだモノであり、始末をつけるのも人間であった。

いつものように、多く張り巡らされた伏線。
それが、エンディングまじかまでどう終焉するのかちょっとばかり想像できない。
…というのも、この作家の作風で、この物語の帰着点は、かなり切ない。

最初、それはカミサマのヒトへの罰か?
と仮説を立てて読み進み。
けっきょく、ヒトが作って呼んだ大きな恐怖の空回りだったというエンディングである。

ああ。
荒神様は、高い山に静かにいらして、ただ見守るのみ。
カミサマ方は、そんなに器の小さなコトはなさらない

最後の1ページにたどりつき、けっきょく、これは、江戸時代にかぎらずに、現代になっても、場所とカタチと状況を変えて、いつもヒトが陥っている普遍的な話であるなぁと、腑に落ちた。

うーん。
最初から、猛烈なスピード感に乗って、ファンタジーとして楽しみつつも読み進み。
またも、この作家の物語は深いのだなぁ。

ってことで、時間がまとまって使える時の読書におススメ。
私ときたら、この本のせいで、師走だっていうのに滞りゴトが満載でした(笑)。

…そして、内容の深さにも振り回され、レビューはいまごろになるし、年を越したよ(苦笑)。