桐野夏生作『バカラ』を読了。
桐野作品の読ませて魅せるチカラを久しぶりに堪能したぁ~と溜息一つついて、本を閉じた。
いやあ、相変わらずすごいですね。
何がって、ヒトの持つ「悪意」の描き方…。
読者は、対する口惜しさをバネに、どんどん読み進ませられるはめになるってこと、しばらく桐野作品を読んでなかったもんで忘れてました。
油断しました。
手に取った理由は…。
やはり東日本大震災と福島の第一原発のこと
あたりまえといえばそうなのだけれど、あの日以降、このことをテーマに描いた小説作品って増えたと思う。
そして、東北はふるさとであり、肉親が住む場であって、他人事ではなかった私は、そんな作品だとキャッチしてしまえば、やっぱり無視することはちょっとできない。
…これって、ある種のトラウマなのかなぁ…とか思いつつも必ずと言っていいほど読むことになる。
本書は、東日本大震災以降の架空の日本。
物語は、あの事故を事実を少しずつ最悪な方向へ進ませたフィクションだけど、それがまた妙にリアリティがあって、もしや、そちらがほんとなのかも?
私たちは知らされてない?
…みたいな気分になって読み進むことに。
震災のため福島第一原発4基は、すべて爆発し、放射能警戒区域は関東圏まで広がった。
東京までもが避難勧告地域に指定され、人々は、西へ避難。
政治・経済の中心も大阪へ。
天皇も京都御所へと住まいを代えた。
そして、東京で開かれるはずだったオリンピックは4年後大阪で開かれることになっている、2016年…。
震災から8年たって放射線量が下がっても、東京は空き家だらけで、地方から来た若い日本人や外国人労働者がルームシェアしながら住んでいたりする。
被害の甚大さを忘れるためにか、権力はそれを隠すというベクトルへ動き、被災者たちは、誰の助けも得られぬ「棄民」となった。
日本は、民主的な社会からずっと遠くへ来てしまった。
事実をつまびらかにしようとする人は捕らえられ消される。
しかし、その捕らえにきて消す主体は終始一貫描かれず、負の情報の発生は、市井の誰かのネットへのアップ⇒拡散が引き金になっていたりする。
…本書の舞台は、そんな恐ろしい日本が描かれている。
そんな世界のとば口、震災直後に不思議な登場の仕方をした少女「バラカ」
彼女は、その後、放射線の影響で甲状腺がんを得て
⇒手術。
そして、震災被害者たちの象徴として担ぎあげられ、危険で落ち着かない、不穏な運命を背負うことになる。
たった8歳の少女「バラカ」が襲われ、囚われ、逃げるさまを、ノンストップで描くものだから、読者は、休む暇がなかった。
そして、 彼女が39歳になった日。
物語は、いったんの微かな希望を纏ったエンディングを告げるけれど、物語が突き付けてきた恐怖みたいなものは、ずーっと消えないんだよなぁ。
しかも、このバラカが39歳になった物語=エピローグは、単行本化されたときに加えられたものだと後で知って、ああ、書籍化されてから読んでほんとによかxったよ..と思う。
ひとびとの過剰な欲望が、どんな世界を作ってしまうのか、なんか、あの震災後に、ともすればあり得た世界だし、これからもそんな危険と無縁ではないなぁと思う。
そんな読後感。