『バイアウト』は、希望とヒントのある経済小説

『バイアウト』表紙幸田真音さんは、新作が出ると必ず読んでしまう作家のひとりだ。

ジャンルは「経済小説」。

ただし、デビュー作の『小説ヘッジファンド』から始終一環して主人公や主要人物はいつも必ず女性で、小説のヒロインたちは、金融の知識を駆使することで、たったひとり、あるいは、数人のチームで大企業倒産を画策したり、あるいは、発展途上国のひとびとを救ったりするために、「果敢に戦う」。

舞台が日本国内に閉じていないというのも手伝って、ときどき、国際的なスパイ小説を読んでいるような気分にもなる。

そして、エンディングは、清々しく痛快、好きな作家だ。

今回読んだバイアウトは、企業買収を素材とした話。

ちょっと前の野球チームやTV局の買収騒ぎ、その後その当事者への粉飾決済による地検介入、そして「時のヒト」のあっけない逮捕…といった事件が、たぶん、モデルになっている。
この作家のもうひとつの特徴は、その小説が書かれた年現在の事件や経済問題を小説のテーマに採用し、まだ、時代は明確な解答を持たずもやもやした気分でいるときに、はっきりと「作家の考え」を打ち出す、潔さにもある。

今回の時代の問いは、「会社は誰のものか?」。
ちょっと前に、TVメディアが少しヒステリックに取り上げたあの問いだ。
今度も作者の答えはきちんと物語に描かれていた。

この作家の本を読んでいつも思うのは、世の中を変えるヒントは、「金融」の知識=「お金」という道具の扱い方の中にもある…ということ。

そして、時にそれは、信じられないほど強力な働きをする。

もともと、債券ディーラーなどを長く経験したのちの作家活動だから、それはその世界では、ごく常識的なことなのだろうけど、私にしてみれば、その部分が知的でなぞめいて見えて面白い。

まるで、007の秘密兵器のように、誰にも知られず密かに仕掛け、ダイナミックに大変革を成し遂げる。

「スパイ小説」さながらにドキドキと、話の展開を面白がり、私にとってはいつも気に入りのエンディングに、任務完了!とばかりにほっとする。
そして、読了すればしたで、何か今の自分がやりたいことへの「希望あるヒント」をもらっていることに気づいたりする。

↓デビュー作が未読ならかなりおススメ