原宏一という作家のコトを遅ればせながら知ったのが、2012年に出た『ヤッさん』という型破りな物語。
そもそも物語自体が面白い上に、ヒトが働くってどうゆうことか?みたいな問いまで投げかけてくれるもんだから、心底嵌った。
で、そろそろ、続編とか出てもいいんじゃあないかと、書店で探せば、続編はないが、なんか似たような感じの物語が出来上がっていたみたい。
『ヤッさん』の主要人物が、中年オトコホームレスのヤッさんと、人生のスタートからうまくいかない若者タカオ。
その組み合わせは、脱サラ後に人生転落の中年オトコ・髭太郎と、人生のスタートも着れない若者勇人に踏襲。
(裏表紙のイラストが、その主人公たちみたい…だけど、こんなにカッコいいキャラじゃあないのよねぇ~・笑)
本作は、人生の再起をかけたオトコたちの挑戦の物語でもあった。
高校中退の勇人は、彼女を大学生に取られ、大学コンプレックスまっしぐら。
それを解消すべくバイトを辞めて、まずは、「高認」こと、「高等学校卒業程度認定試験」合格を自力で目指すことにした。
墓場に面したぼろアパート「かなめ荘」にこもって、19歳にして人生再スタート!
しかし、お金はないは、そもそも勉強が嫌いで中退したわけだから、受験のコツもまったく知らず。
ただひたすらに効率の悪く、先のみえない暗い日々。
そもそも、けっきょく自分はどう生きたいのかが見えてないってのも、いけていない。
ちなみに、タイトルに三連呼もされている「ヴルスト」は、ドイツ・バイエルン州の伝統的なソーセージのコト。
同じアパートの住人にして、そのヴルスト職人を夢見てソーセージ作りに没頭するアラ還おやじ髭太郎が登場。
勇人は、あっという間に、彼の人生に巻き込まれ、二人で、旨いソーセージ作りを目指すことに相成った。
ヴルストの真髄を探る旅と受験生活。
59歳と19歳…中年×若者の組み合わせは『ヤッさん』と同じでも、今回の中年オトコは、ヤッさんのように腹が据わったヒトでもなくて、なんか、どっちがオトナでとっちが若造?
…なんて、セリフ回しや展開も面白く。
ああ、人生の正念場ってのは、どんな年齢でもやってくるし、そして、乗り越えるために与えられるものなんだなぁ。
…という読後感。
そして、この物語も、ヒトが生きて、シゴトをするってどうゆうことかに対する、作家の考えがそこかしこに透けている。
戦時中、捕虜としてとらえられたドイツ・ヴルスト職人の記念碑を前に髭太郎曰く。
「結局、上に立って人を動かしたり金を動かしたりしているだけの連中に、何ができるのかって言うんだよな。やつらが戦争や権力争いに明け暮れて、際限のない金儲けに血道をあげている間も、こつこつと仕事に精をだしている職人たちがよのなかを支えている」
髭太郎は、かつて日本企業のファンドマネージャーで、それを知った勇人に「それってエリートっすよ」と言われて、曰く
「ただ、これだけは言っとく。おめえの目にどう映っているか知らんが、ああゆう虚業の世界に浸かってると、どんだけちゃんとしたやつでも自分を見失っちまう。だからいいか、エリートなんぞと呼ばれてる連中を買い被るもんじゃあねえ。しょせん、調子こいて人生勘違いしてるやつらばっかしなんだからな」
…うーん、過去の自分に言っているにしても、手厳しいなぁ。
もちろん、ココまでのことを言う髭太郎の謎の過去も、この物語の重要事項。
究極のヴルスト作りも、人生のひとやまも乗り越えて、主人公ふたりの物語のエンディング。
それは、とっても爽やかです。