都会にもカラスノエンドウが咲いています/旧4/19・戊子

東北の街では、花冠にできるほど大量に咲いていたカラスノエンドウ。

さすがに、あれは東京ではみないなと思っていたら、しっかりと咲いていました。

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ふと遠回りして土手状になった道を歩いていたら、チラチラ見えてきたのが、ムラサキの花がポツンポツンと群生して咲く一角。
近づいてみたら、見覚えのある花が我がもの顔で咲き誇っていたというわけです。

野草図鑑などを見ても春の草として紹介されることが多いのですが、この草が茎を伸ばして巻きひげを出し、他の草に絡みつきながら伸び、そうして辺りを覆い始めたのに気づく頃なら、もう季節は、正真正銘夏の気配。
小さなスイトピーのような花をぽつぽつ咲かせた様子が可愛いですね。

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しかし、少しいただき家に飾ろうかと手を出しても、都会の雑草は狭い一角に生えますから、巻きひげは、他の草に想像以上に複雑に絡みつきそれだけの採取は困難を極めます。

ならば、この一画、他の草と共に全部をむしってゆこうか…とやややけになって、辺り一帯を根っこごと。覚悟を決めて、他の雑草とともにわさわさと運んだとしても、実は、主目的の紫の花は雑草にしては華奢。
すぐに水揚げができない以上、花は家までもってはくれません。

だから、空き地や土手でカラスノエンドウを見かけたならば、そのままそこで観賞するのが結局正しい。
いやいや、どちらかといえば何回か通い「観察する」のが楽しい草であるかもしれません。

カラスノエンドウは、「烏(カラス)」+「野豌豆(ノエンドウ)」の名前のとおり、大きく捉えればサヤエンドウなどと同じマメ科の植物です。

このまま駆除されずに育ってゆけば、やがて、サヤエンドウを小ぶりにしたような小さな鞘を附けます。
遅く咲いた花を残したままで鞘も育っていっしょに並び、その造詣はなかなかに素敵です。

そして、また数日後に出向けば、今度は、鞘が熟して黒く色づいているはず。

この熟した鞘こそが「烏」と付いた由来で、ここでやっと「ああ、だからカラスノエンドウ!」と、深く納得できるはずです。

やがて晴れた日に、鞘は割れ、図鑑などには、「激しく種が飛び出す」とあって、一度その瞬間を見てみたいものと思いつつまだ叶えられてはいません。

ちなみに、黒くなる前、まだなりたての鞘は、天ぷらにすると、意外に美味という話も聞きます。
サヤエンドウに負けじとしっかり一人前のマメの味がするんだとか。
といっても、私は、まだいただいたコトはありません。

作家・梨木香歩さんの『からくりからくさ は、若い女性4人で古い日本家屋に暮らす物語で、そのうち一人が染色の仕事をしていることもあって、草木の話がふんだんに登場します。

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中に、庭の雑草を素材に食事を作るエピソードがあって、”採取した草々をちょっとの間おいて、違う用事を済まして戻ると、それらが、丸テーブルに飾られていた”というシーンが印象的。

ふと、そこにカラスノエンドウもあったんじゃないかなぁ…と思い出しました。
さっそく、書棚から出して、そのシーンを探せば、ああ、あります。
写真の文庫版の65ページです!

それは、白いテーブルクロスの上に丸く並べられた「白のハルジョン」、「淡紅のハルジョン」、「蛇苺の実」、「露草」、「カラスノエンドウ」…。

なんど読んでも、可憐で美しい光景であることでしょうか。

そして、これは、そのままこの季節の空き地や庭先に育つ主たる雑草。

ふと、現実にカラスノエンドウのあった、あのあたりの記憶を思い起こせば、確かに「ハルジョン」は咲いていました。
よーく探せば、「蛇苺の実」も「露草」も、ともに生えていたんじゃあないかなぁ…。

ああ、やっぱり、また明日の朝、それらを少しいただきにいってみようか…と、夏用の白いテーブルクロスをちゃっかり探し、懲りない思いが頭をもたげます。

雑草たちは、夏の訪れとともに勢いも魅力も増して、ほぼ一年中、こうして私の心を捉えることになります。

◆今日は、2014年5月17日/旧暦4月19日/卯月戊子の日