鋭いツッコミで真実を追及する田原総一朗氏が、今回、切り込んだ相手は、若手起業家。
…と聞けば、ちょっと興味津々だけど、ビジネス書のコーナーで本書『起業のリアル』を手に取ったイメージは、「なんか地味そうな内容の本」。
いや、すみません。
でも、1冊の本に16人の起業家のインタビューは、いっけん、細々しすぎな感じしませんか?
がっ、その場で、田原総一朗氏による「まえがき」→第一章「儲けを追わずに儲けを出す秘密 LINE社長 森川 亮」と立ち読みして、印象が変わる。
いちばん、「おっ! あれっ?」と思ったのは、起業家としてビジネスに携わり、とりあえずの成功を収めているヒトの話にもかかわらず、ギラギラがっついた感じがない?
…というところ。
その不思議な新しさとに惹かれて、けっきょく(地味な本なのに)購入。
その後、次々と登場する1970年~1980年代生まれの起業家たちの考えを、どんどんと読む。
田原さんの切り込みは、真摯でストレート。
そして、政治家やビジネス界の大物に対するのと同様、もちろんするどい。
その鋭さに臆することなく飄々と応える若手起業家という構図が心地よく、読み物としても純粋に面白い。
登場した起業家たちの目標は、いつも、豊富な利益や出世よりも、今やりたいことをやるということにある。
そして、彼らの目線は、儲けることよりも、自分が生み出した新しいシゴトで社会を変えてゆくことに向いていて、だから、その企業の事業の組み立て方も、しいては働く人たちへの扱いも“ゆるい”…と田原さんには見えたのだろう。
本書を貫く、田原さんの疑問は、本誌冒頭や表紙の帯にも書かれていることそのもので、
「理想はわかった。」
「でも、どうやって稼ぐの?」
つまり、社会を良い方向に変えるのはステキなことだけど、ビジネスをやる以上、稼がなくっちゃあ続かないでしょう?
という言い分だけど、本書を読めば誰もが、それは老婆心であると解るだろう。
もう、長いトンネルの出口は見えているかもと思えてしまった
日本も世界も、ある時期から、今までのシステムでは立ちいかない時代に入り、長いトンネルをくぐり続けるというか、大きな曲がり角を曲がり続けていたような時期が長かった。
この16人の起業家たちの話を聞けば、ぼやぼやしているうちに、世界は、トンネルの先に明かりを見つけ、曲がり角も曲がり終わろうとしているようにも思えてくる。
知らなかった事業も多いけれど、LINE、ZOZOTOWN、ライフネット生命など、誰もが知る新しいビジネスを作ったヒトたちももちろん登場。
インタビュー中で語られる、事業の組み立て&展開も、彼らの働き方も、これまでのベンチャー起業とも一線を画す“ゆるさ”が、読者には、かえって興味深い。
旧態依然の考えを捨てられない企業が、競争に勝つために「ブラック企業化」して、やがて衰退してゆこうとする日々の中。
競争や儲けをあまり重視しない…と、発想を大転換したかのようなカタチで生まれたビジネスが、けっこう、うまく機能している面白さ。
ああ、時代は本気で変わった方向に動き始めたなぁ…と実感する、「地味な本」と思ったはずが、あとからじわじわ旨みを出す内容なのである。
そして、新しすぎて、テレビや新聞などの既成メディアの中では、ときに胡散臭さでくくられるビジネスの中味を、既成メディアの中で生きる田原さんが切り込み、理解しようとする功績は大きいと思う。
◆一応目次を、16あるビジネスのうち、あなたは何個知ってました?
まえがき
第1章 儲けを追わずに儲けを出す秘密
LINE社長 森川 亮
第2章 「競争嫌い」で年商一〇〇〇億円
スタートトゥデイ社長 前澤友作
第3章 管理能力ゼロの社長兼クリエーター
チームラボ代表 猪子寿之
第4章 二〇二〇年、ミドリムシで飛行機が飛ぶ日
ユーグレナ社長 出雲 充
第5章 保育NPO、社会起業家という生き方
フローレンス代表 駒崎弘樹
第6章 単身、最貧国で鍛えたあきらめない心
マザーハウス社長 山口絵理子
第7章 現役大学生、途上国で格安予備校を開く
e‐エデュケーション代表 税所篤快
第8章 七四年ぶりに新規参入したワケ
ライフネット生命社長 岩瀬大輔
第9章 上場最年少社長の「無料で稼ぐカラクリ」
リブセンス社長 村上太一
第10章 四畳半から狙う電動バイク世界一
テラモーターズ社長 徳重 徹
第11章 目指すは住宅業界のiPhone
innovation社長 岡崎富夢
第12章 三〇年以内に「世界銀行」をつくる
リビング・イン・ピース 代表 慎 泰俊
第13章 ハーバード卒、元体育教師の教育改革
ティーチ・フォー・ジャパン代表 松田悠介
第14章 四重苦を乗り越えた営業女子のリーダー
ベレフェクト代表 太田彩子
第15章 二代目社長が狙う「モバゲーの先」
ディー・エヌ・エー社長 守安 功
第16章 ITバブル生き残りの挑戦
サイバーエージェント社長 藤田 晋
特別対談 田原総一朗×堀江貴文 五年後に花開く、商売の種のまき方
あとがき