池井戸潤作『陸王』読了。最初ストーリー追って一気読み。味わいつつ二度読み。TVドラマ化を知って再々再読。つまり好きすぎる一冊です。

池井戸潤作『陸王』を、結局一気読みして読了。

でその勢いで、ここにレビューを書いて、一年間下書きに放置(;´∀`)。

10月からTVドラマ化されるんだぁ~と知って(書店で)、そういえば…と、この事実に気づいた次第。

ってことで遅ればせながら、一部リライトしてお送りしますっ!

陸王

この作家の本は、今度こそじっくり読もうと決意してページを繰るけど、そんな悠長な読み方ができたためしがありません。
この物語も、パターンは『下町ロケット』と同じく、小さな町工場が新しい事業に打って出ようの夢を描き、大企業の横やりや資金不足などの中小企業によくありがちな紆余曲折を経つつも、夢をつかむという話。

本作は、池井戸潤スタイルそのものの、誤解を恐れずに行ってしまえばワンパターンなのだが…。

だからこそ、細部に宿った魂を楽しめるのである。
たとえば…。

1.ディテールが細かく丁寧に描かれている。

本作の主役たるのは、足袋づくりで100年続く老舗メーカー「こはぜ屋」とその社長と従業員たち。
なので、ロケット部品を作る工場とはまた違った世界がそこにくり広がり、シゴトそのものの描写や、伝統的な商品、老舗といった、業界を知る面白さがある。

2.大企業の苦悩と中小企業の悲哀という対比が面白い。

これは、時代の節目でもある、現代社会のリアリティ。
大企業は、既得権益はあるけど、いまやだからといって安泰ではなく、新しいことをするのにその巨体を持て余しているきらいがある。
一方、中小企業の脆弱さ。既得権益なんでまるでない、という実情はあるけれど、フットワークが軽い分、イノベーションを生み出す可能性に案外近い位置にある。
…みたいな、時代の面白さが描かれている。

ドラマ「半沢直樹」の大ヒットで、勧善懲悪を池井戸ワールドに期待する向きがあるけど、注意深く読めば、そうゆうたぐいの面白さとは一線を画す。
もっと深い対比なのである。

以上の2点が、この作品の真骨頂。

だから、まずは、ストーリーを追って、短距離走みたいに集中して読んでしまうのだけれど、すぐに「あそこのあれって?」とか思い出し、今度は注意深く再読。そうゆう読み方にも耐えうる作品だと思う。

本作の一番の魅力は「逆境からの逆転のヒント」がさまざまに描かれていること…かな?

物語は、老舗の暖簾を守りつつ100年続いた足袋メーカー「こはぜ屋」が、長年培ってきた足袋製造のノウハウを生かして、ランニングシューズ事業に打って出ようとする話。

もう足袋だけではジリ貧で、あと何年やっていけるだろう…という中小企業の悲哀が全面に描かれた冒頭部分。
融資担当の銀行員から、新しい事業に乗り出すべきとアドバイスされ、そこでたまたま得た新しいランニングシューズの知見。

・常識とされてきた踵で着地する走法=ヒール着地走法は、かえって足の故障をにつながりやすい。
・人間本来の走りとされる「ミドルフット」「フォアフット」着地走法(つま先や足の中央で着地する走り方)を採用し、故障なく活躍しているアスリートが多い。

…を知り、ならば、地下足袋製造のノウハウがランニングシューズに生かせるのではないか…と思う。

「こはぜ屋」の社長宮沢は、社内にプロジェクトチームを立ち上げ、開発に着手するが、もちろんお約束のように立ちはだかる、資金難、バリューつくりのための新しい素材探し、同じく、ソール(靴底)開発にも困難を極め、そこに、大手シューズメーカーの妨害工作。

…池井戸作品は、この困難をきちんと乗り越えるアイデアでもって物語を組み立ててくれるから、読者は、さて、今度はこの困難をどうやって乗り越える?
という姿勢で読んで、ワクワクする。

もう何冊も読んで、そこは知っちゃっているから仕方ないのである。

その乗り越えるやり方が、けしてファンタジーではなくて…。

「ああ、なるほどそうゆう手って、実際に存在するよなぁ」とひざを打つリアリティ。

超平たく言っちゃえば、読者のこれからの生き方に非常にヒントになるあれこれが、物語の中に煌いているのである。

それは、「物ごとの考え方」でもあるし、
実際の社会にすでに存在している方法でもあるし
…いろいろ。

それらをひとつひとつ積み上げていけば、ホントにやりたいことがあるならば、小さな組織にも、個人にも、現代という時代は、案外門戸を大きく開いている。
そんな風に希望を与えられ、ついでに生きる課題まで突き付けられたりもするのである。

ただ面白いだけでなく、読者にやる気を出させようとする物語ってのも、案外稀有。
そしてそこが池井戸作品の最近の真骨頂的傾向かもね。

そして…。

2017年10月にTVドラマ化なんだそうです。
主演は、役所広司さんとか。

ふーむ、これは絶対見なくちゃね。

ただし、あまり煽情的、感情的な雰囲気のドラマ作りは勘弁してねぇとも思う。
「半沢直樹」も「下町ロケット」も、もっとフラットに淡々と描いても面白いのになぁといつも思うんですよねぇ。

↓◆できればTVドラマを見る前に読んでほしいな…と思ったり。