室積光作、『史上最強の内閣』『史上最強の大臣』 (小学館文庫)を続けざまに読了。
久しぶりに大型書店を回遊し、文庫のコーナーでこの派手な装幀にぶち当たった。
たまたま手に取った『史上最強の内閣』のほうが、シリーズの最初。
いつもの習慣で、とりあえず最初の1ページを読む(←これ、小学校での教え。そのまま身についてしまった)
⇒1行目の「日本人は何も知らない。この国の実情をである。」からすでに、物語のとりこになった。
⇒この本、絶対に面白いはず!と確信。物語の出だしは重要である。
で、派手な文庫を2冊、むんずとつかみ、もちろん買ってしまったのである。
物語は、荒唐無稽な政治パロディ小説。
民主的手続きをとって組閣された内閣は、実は「二軍内閣」で、日本には第二次世界大戦敗戦以降「本物の内閣」が準備されていたんだそうである。
ひえぇ~っ!
その「本当の内閣」は、京都御所を本拠地とし、平和な時代にはその存在は秘されている。
そして、これはもういよいよ、現在の内閣では手に負えないという国家的難問にぶち当たった時、満を持して表舞台に登場、期間限定で日本のかじ取りをかって出るのである。
…なんかすごい設定です。
そして、当然のことながら、事態は起こってしまった。
北朝鮮が、日本にむけて、中距離弾道ミサイルを発射する準備に入ったという。
そしてそこには核弾頭が搭載されているかも知れず!!
….いやいやいやいや、物語の中の話ですよ。
本書が、単行本として世に出たのが2010年11月。
その前年2009年、リアル日本(フィクションじゃなくての意味)の総理大臣は麻生太郎氏、総務大臣が鳩山邦夫氏。
一方、物語のほうは、浅尾総理に鷹山総務大臣。
これは、もう誰がモデルにされているか一目瞭然。
浅尾総理は、「祖父さんの時代は波乱があった分だけ、人材が豊富だったんだよなぁ」とか心の中で舌打ちしたりしてる。
ああ、吉田茂か…いや、そりゃリアルなほう。
そしてその年の4月には、北朝鮮がミサイル発射実験をして、秋田県沖の日本海やら、東北沖の太平洋上やらにミサイルを落下させた…これもリアル事件。
とにかく物語は、この辺のディテールに徹底的にこだわって、リアルに日本に起こったことに似せているもんだから、フィクションなのかリアルなのか時々わからなくなる。
そして、その徹底した似せ方が、(モデルにされた当人たちにはちょっと嫌味かもしれないけれど)、読者にとってはこの物語の大きな魅力なのである。
「本物の内閣」のメンバーって、マジできる人材ぞろい。
物語中には、各大臣たちが、政策を語るシーンが多めに取られていて、それが、ホントにそういうことやってみては?
と思うこと多しでややびっくり。
なんか、マジで「本物の内閣」が日本のどこかにあって、日々政策論議を重ねているんじゃなかろうか?と思ってしまった。
物語の中のこととはいえ「本物の内閣」のメンバーたちは、今のリアルな日本の問題に対して、かなりマジなのである。
これって、作家・室積光が、ひとりの日本人として、日々マジで考え、行動しているってことにもつながって、その作家の姿勢が物語に深みとリアリティをもたらしてもいる。
なんかそうゆう意味でも、すごい小説なんである。
「本物の内閣」のメンバーはこんな方々。
これも、せっかくだから、物語で語られた素性とともにメモしておこう。
これがまた、作家の理想とする歴史上の人物がちょっと透けてみえたりして面白いと思う。
・内閣総理大臣 二条友麿⇒藤原北家の末裔らしいが、詳細は不明。
・官房長官 松平杜方⇒会津出身。裏切らない、どんな理不尽な約束も命がけで守る人。
・総務大臣 高杉松五郎⇒山口県人、高杉晋作+吉田松陰+桂小五郎みたいなひとだとか。
・法務大臣 島崎楼村⇒長野県人。長野は教育県ということで、戦前の校長先生の風格を持つ。
・外務大臣 坂本万次郎⇒高知県出身。長身で洗練された身のこなし、外国語も堪能。
・財務大臣 浪速秀吉⇒大阪出身。ナニワ金融道のような経済の現場に精通。
・文部科学大臣 新門辰郎⇒江戸の人。一見すると職人風。人間は体を使って学べという信念の人。
・厚生労働大臣 具志堅洋子⇒沖縄県人。沖縄の女性は働き者で有名だから…という人選(?)
・農林水産大臣 米内成美⇒岩手県人。農業漁業両方に精通。
・経済産業大臣 近江明人⇒滋賀県人。近江商人の精神=三方よしを一番よく理解している。
・国土交通大臣 紀伊国屋百恵⇒和歌山県人。交通経済学の権威。モデルのような長身でメガネ美人。
・環境大臣 松前熊蔵⇒北海道県人。地球温暖化に憂慮している。アウトドア派風の野性味あふれる大男。
・防衛大臣 山本軍治⇒広島県人。「仁義なき戦い」のほうの広島を背負ったような人材(?)
・国家公安委員長 西郷利明⇒鹿児島県人
…と凝って考えられてるけど、やや残念なのは、本書で活躍するのは、この中の半数ぐらい。
彼ら大臣たちが、未曾有鵜の危機からいかにして日本を救うかというのが物語の主軸。
そして、加えて、彼らにテレビ局と新聞社から記者がそれぞれ一人ずつ張り付いて、彼らのやろうとしていること、やったことを逐一取材し、何年か後にそれを報道する前提というのが物語の横軸に据えられる。
だから、大臣たちの政策論のページが延々続いても、飽きないどころか、かえって興味深く感じたりするのである。
なぜか、渦中の敵方、北朝鮮の書記長の長男までお気楽に登場!
この破天荒さは、この物語の真骨頂。
彼は、ふらりと不法入国でやってきて、タレントとして日本で一躍人気を博すという設定も面白ければ、彼を北朝鮮に連れ帰ろうとやってきた「北の工作員」たちが、なぜか日本に残り、韓流スターばりのスターになってゆくというおまけまで。
この設定は、続編『史上最強の大臣』にももちろん踏襲。
2作目は、文部科学大臣 新門辰郎が、大阪の教育改革に腕を振う物語。
それが、軍国教育を推進させていると曲解されて、マスコミから批判を浴びる事態になって…。
こちらは、大阪知事が町本知事、批判の急先鋒になるジャーナリストが堀越新太郎…って、読者は、やっぱり、リアルとフィクションのはざまを行ったり来たりさせられて楽しい。
楽しいのだけれど、こちらは物語の中とはいえど、教育政策を実行する具体的なやりかたと、課題や苦労、そしてそれがどんな結果を生むのかまでも描かれていて、読み応え満点。
こうして、政治パロディ小説を面白がって読み進みつつも、読者は、個々に自分と日本の政治のかかわりを考えずにはいられない。
最初、こんな政治家がほんとにいたらいいなぁとか思い、楽しく心地よく読む。
しかし、徐々に、なんかそうゆう感想って違うかもと思いはじめ…。
やがて、日々、自分の考えを持つ努力を私たち日本人がしてこなかった甘さが、今の日本の不安定さを生み出したんじゃあないかと、最後の最後にきて、ハッとさせられるのである。
「本物の内閣」のメンバーは、それほどに物語の中で、日々、どうしたら良い日本になるのだろうかと考え、だからいつも堂々と発言し、必要とあれば鮮やかに解決してしまうのである。
ひとことでいって、このフィクションの世界の大臣たちは、かなりかっこいい。
そんな政治家ってリアル世界には、いったい何人いる?
↓読むなら、シリーズの最初からをおすすめ。最初はこっち