橘玲作『タックスヘイヴン TAX HAVEN』(幻冬舎)を再々読了。
単行本は2014年春に書店に並び、この方の物語は外さないだろうと中身を見ずにレジへ!
税込み1836円を請求されて、心の中で「げっ、高っ!」と思いつつ払う。
できれば、消費税が5%のうちに発売してほしかったなどと思いつつ、書店併設のカフェで読んで、やはりはまった。
もう物語の冒頭から、5億の金の税金逃れをするためのスリリングな旅の話。
それと並行するように、シンガポールでホテルの高層階から転落死した金融コンサルタントの死。こちらも、巨万の金がうごめく気配満載である。
あっという間に、読者(←私)の気は大きくなって、さっき払った1836円とか、消費税の3%差額とか。
ちゃんちゃらせこいものに思えてきちゃう。
そういう意味では怖い話。
怖いけれど、やはり、エキサイティングな物語。読み始めたら、筋を知っていながらもどんどん先へと読み進みたくなるのである。
パナマ文書の件がニュースになると、いきなり文庫本が書店に並んだ!
単行本を読んだ当初は、翌年には文庫化されるんじゃないかなぁと思っていたけど、それがなかなか待たせるじゃないの。
というのも、単行本は場所をとるので読んだらすぐに処分して、どうしても再読したけりゃ文庫を買うがささやかなマイルール。
それがどうも出る気配もないもんで(その後、再読もしちゃったり)長々と単行本がわが書棚の場所をとる。
で、今ごろ出たかぁ。
ああ、あざといなぁ…と思いつつ、もちろん手に取る。
けっきょくこれが再々読みのきっかけだったりするのだが…。
さて、文庫は手に取ったらまずは裏表紙の「内容紹介」を読む。
『タックスヘブン』のそこには…。
「東南アジアでもっとも成功した金融マネージャー北川が、シンガポールのホテルで転落死した。自殺か他殺か。同時に名門スイス銀行の山之辺が失踪、1000億円が消えた。金融洗浄(マネーロンダリング)、ODA、原発輸出、仕手株集団、暗躍する政治家とヤクザ……。名門銀行が絶対に知られたくない秘密、そしてすべてを操る男の存在とは? 国際金融情報小説の傑作!」
…とあった。
ああ、たしかに「金融洗浄(マネーロンダリング)」「ODA」「原発輸出」「仕手株集団」は、そろいもそろって悪だくみとして活用される様が描かれていたし、それらを活用したのはもちろん政治家とヤクザだった。
さらには、そういえば、北朝鮮まで関係し…とふつふつと思い出される面白さ。
そして、それらが、実在の都市で展開し、時々リアル事件をモデルにした?と思しきことも登場し、フィクションだったかノンフィクションかと思えてしまう、リアリティ。
金融サスペンス的な小説が好きなら、ぜったいはまる。
だけど、私は「いい!」と思ってはまるところは、それとはちょっと違う。
私のいちばんのはまりどころは、主人公の立ち位置。
これら入り組んだ事件に、立ち向かうのは、政治家やヤクザから金融ゴロ扱いされる主人公・古波蔵というプライベートバンカーなのだが、彼は若くして成功しすでに巨万の富を持っているらしいという設定。
通常ならば、そこで人は守りに入るものだけれど、彼は、物語の中ひとりお金から自由である。
お金=道具ということを知っていて、それが巨万の富であろうと振り回されない。
物語では、当然のことながら(サスペンスだしね)多くの登場人物が、お金に振り回され、最後は非業の死を遂げる。
それらは、けっきょく巨万の富を操っている気で最後はお金に殺されるという構図。
だから、なおさら、主人公の生き方がきらりと光ってかっこいいのである。
再々読して、多くのエピソードが記憶される中、それでも、この物語が面白いと思えてしまうのは、やっぱり、この主人公の生きざまが、現代のヒーロー=何にも負けない振りが、時代に合っているからなんだろうなと思う。
だって、現代の事故・事件の多くは、けっきょくヒトがお金に振り回されて負かされる…って構図じゃない?
つきつめてゆくと。
それを、「あんなものは道具だぜ」と、主人公・古波蔵は、言っているようにおもうんだよねぇ。
↓けっきょく文庫は買わず。Kindle買って、電子書籍版を所有することにした。