すごく久しぶりに服部真澄さんの本を読んだら、やっぱり、相当面白かった。
しかも、読み終えた昨日6月6日、本書の中で重要なテーマとなる諫早湾の潮受け堤防排水門の開門訴訟の、国の抗告を棄却の判決が出る。
その符号にちょっと驚きつつも、物語の中と現実の乖離にちょっとやるせない気分にもなった。
コレは、日本の実情と希望を描いた物語。
本書のテーマは、実は地球温暖化対策に有効な決めてを持たない日本という現実を主軸に、その答えを、今まで目を向けられなかった日本をとりまく広大な「海」の営み置く。
海が浄化される営みをヒントに海を再生→温暖化対策につなげようとする科学的な部分。
そして、実際に政治を動かし、世の中を変える方法論。
その二つが、物語をホントにポジティブ・スパイラルに導いてゆくという展開。
この作家の特長である壮大なストーリー展開…というには欠けるけど、それでもワクワクしながら読めて楽しかった。
日本の海に普通に育つ植物が切り開く未来
護岸工事という名目で荒らされた海再生のキーとなるのは、「菱」や「ホンダワラ」などの海藻…日本の海に普通に育つ植物であるというのがまず新鮮。
これらの生態を利用して、海を浄化し、収穫した藻は石油資源にバイオマスエネルギーの材料になるという設定。
そして、これらを成育させるためには、コンクリートで固められた海岸を解放し、浅瀬に戻す作業がいるという前提条件も提示して、その舞台となるのが、東京湾と諫早湾なのである。
やや奇想天外ではあるけれど、諫早湾を開門し元に戻す方法を示し、東京がヒートアイランド化した理由を浅瀬をなくしてしまったコトだと説いて、そこを元の東京湾に戻す施策を提示する。
経済的にも足りた(今は、余剰を求めすぎな気がする)国の首都圏が、豊穣なる海を懐に抱く贅沢さ。
…ああ、なんとステキなことだろう!
読後最初に思ったのは、そんなコト。
そんな日本に変わりゆくための知識や可能性を、全編通じて、作家はそこここにちりばめて…どこまでが今の科学技術で可能なのか…の疑問はさておき、やはり、その部分に興味津々。
この作家は、緻密な取材をベースに作品を生み出すヒトだから、おそらく、どこかの誰かが地道に研究を重ねる途上のことが基本にあるのは間違いはない。
そして、他の代替エネルギーのことと同じく、日本がそちらに舵をきりさえすれば、物語は現実になるんじゃあないかなぁ…と。
その技術でもって海を再生させてゆく手法は、物語の華の部分
そんな優れた方策があっても動かない政府。
そこを動かすために採った手段は、マスメディアを通じてカリスマを育て、強力な世論と既成事実をつくってゆくという…うーん、華々しくて面白かったけれど、これは、現実に対しては、まだまだ無理だろうな。
でも、このあたりがフィクションの面白さである。
環境問題に関して、ネガティブ・スパイラルに嵌りまくっている地球。
そこからポジティブ方面にドラスティックに方向を換える手段は、まだまだ数多く残されているというコトがわかるのは大きい。
この物語は、その一歩を示していると思う。