アグリゲーターという近未来の働き方。それを、世間にプレゼンしているかのような一冊

タイトルにある「5年後に主役になる働き方」と帯に書かれた「あなたは複数の会社で働くようになる」に惹かれてこの本を手にとった。

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アグリゲーター 知られざる職種 5年後に主役になる働き方』柴沼俊一/瀬川明秀著 日経BP社

ちなみに、そこに興味を持って本書を紐解いた私は、20年以上、会社員として働き、「もうやってられない!」と強く感じで、会社員という働き方を辞めたひとりでもある。

ひとりで働くのは、収入は激減するが、気軽で無駄がなく楽しい。
しかし、ひとつ欠点があって、ダイナミックさに欠ける。

会社組織で働く価値は、大きなシゴトを、ある種会社に守られながら(社名の入った名刺とか、定期的に入ってくる給料とかね)成し遂げるというコトでもあるから、まだまだ大きなシゴトの一端について経験を積みたいヒトにとっては、気軽に飛び出すに躊躇ある場所でもあろう。

しかし、私の知っている会社という世界は、シゴト以外のムダの方が多く(通勤の満員電車とか、いる必要のない長時間の会議、新しいコトに否定的な上司に対する稟議決済にかかる時間、プレゼンを通すための無用な根回し、夜の付き合い…etc)「そこでもう一度働きたいか?」と問われれば、個人的には絶対にノー!
会社の利益のために動いているというのに、その会社自体が、働く個人を信じていない感じが、どうしてもあって、そこがどーも嫌いなのである。

ああ、この大きな矛盾。

しかし、これって、私個人の話ではなくて、会社組織と個人ともども乗り越えなければならない大きな課題じゃあないかしら?

と思っていたところに、その答えが書かれていそうな本書。

といっても読んでみれば、どちらと言えば、経営側に対して「その旧態依然とした組織を何とかしないと、まずいですぜ」と、警告。
解決策としては、「アグリゲーター」的な人財(人材=コストではなく、人財=資産という使い分けにてこの表現)が働きやすい組織に変えてゆくのが急務です。
…と綴った内容なのでした。

で、「アグリゲーター」って、何よ?

なんか、語感的には、惹かれないコトバなんですが、「アグリゲートする能力を持っている個人」という意味だそうです。

aggregate=集める…なんですが、そこを拡大解釈?

第4章に、「アグリゲーターの5つの特徴」がまとめられているので、そこを抜き出してみました。

1.将来やってくる社会を具体的にイメージし、自分たちならどのような貢献ができるのか考えてしまうし、プランを書かずにはいられない
2.既存事業の枠組みに囚われず、その瞬間に最も適切と思われる事業モデル・アプローチを設計・実行する
3.事業を実現するために必要な能力を見極めることができる
それを集めるだけのネットワークを持っている
4.状況に応じて、自分の古いスキル・成功経験、能力をいとわず捨てることができる
5.強烈なビジョニング力を備えている

この能力でもって、「短期間に社内外の多様な能力を集め・掛け合わせて、徹底的に差別化した商品・サービスを市場に負けないスピードで作り上げる」ことにたけたヒト。

うーむ。
こうゆうヒトって、わざわざ会社員をやってる必要ないんじゃあないの?と思うし、これまでのスタイルの「会社」には絶対使いこなせない人財でもある。

多くの会社が、このようなヒトが居心地の良い場所に変化できればよいけれど、個人的な印象としては、おそらくそうできない多くの会社が、どんどん淘汰されてゆく現象が先に来るのではないだろうか?

結果、スクラップ&ビルド的な流れで、成行き的に、働く環境が変化してゆくのだろうなと思った。

だから、大企業の会社員もまったく全然安心ではない状況は、もっとずっと加速するだろう。

本書は、そんな社会でよりよく生きるために、個人がどうゆう努力をし、どこを目指すべきか=これからの働き方を考える上での、かなり有効なヒントを提示している。
そんなスタンスで読むことをおススメしたいのである。

本書でいいな!と思ったのは、「人財」という新しい概念

私が会社員をやっていて、いちばんいやだった「会社が、そこで働くヒトを信じていない感じ」。

その理由は、社員を人材=コストと考えているところから発していたのか!

…本書を読んで、得た大きな気づきはコレである。

社員を「人財」=資産・財産と日々思える会社には未来があるだろうし、そう言う場所なら、私だって矛盾なく働けただろう。

しかし、今の社会状況を見ていると、ヒトを使い捨てるブラック企業的な部分のみ目立ってもいるような..。

これって、長い過渡期ととらえるべきなんでしょうかね。

…ふと、そんな風に思えたもので、ちょっと付け足し気味ですがここに書いてみた次第。

◆目次と読み方のヒント

はじめに
「知識社会」がやってきた/1980年代と2010年代のビジネスマン/「個人の進化」に対応できない企業/歴史が見たことがない世界/ドラッカーも言及していない人種/企業の短命化は個人の問題に
→この「はじめに」が、いきなり面白かったので、小見出しも書き出してみました。飛ばさず最初から読みましょう。

第1章 個人と企業の問題は一度に解かなければならない
→この章で特記すべきは、「ニュートン型組織」と「ダーウィン型組織」という会社組織の切り分けと、「人材」と「人財」という概念。
そして、GE、P&G、パタゴニアなど、実際にある企業の事例が面白いです。

・リポート/五年後、日本人は複数の仕事を持っている
→男女3410人に聞いた「日本人働き方」調査の結果と、そこから導き出される予想図。

第2章 企業経営を変える三つの武器I・C・M
→知識社会を生き抜く企業へと変化する武器は、イノベーション(I)、コラボレーション(C)、モチベーション(M)である。その細かな解説を企業の経営に対してプレゼンしたような内容です。
そんな会社があったらいいなぁ…と思って読みました。

そして、成果主義の限界を明確に指摘してもいます。

第3章 硬直化した企業組織をどうやって壊せばいいのか
→第1章、2章を受けての実際的方法論が書かれています。
最後の方に書かれた「自立的な働き方も促進する」方法、「成功している企業の共通点」の記述が非常に興味深く

第4章 アグリゲーターが活躍する時代
→アグリゲーターってどんなヒトがテーマ。
自らの働き方のヒントとして読もう!
「寄らば大樹の陰的」な考え方では、もう無理な社会がやってきます。
信じられるのは、自分の価値を棚卸しつつ、その価値をシゴト力に換えてゆく努力。
「アグリゲーターはプロフェッショナルの進化系」という項は、本書全体の内容を象徴しています。

第5章 アグリゲーターを生み出す組織
第6章 イノベーションパワーを拡大する七つの要素
第7章 「人財育成」と「イノベーション」は同時に進めよ

→この3章で語られるのは、アグリゲーターを生かし、そうゆう人財に好かれる組織のありかた

第8章 二〇三〇年 社会、企業、働くワタシ
→短期間でのドラステックな社会変革が予想されています。
プロジェクトも会社も、事業も、とにかく成功のカギは、「ヒト」の生き方とどううまくコラボレートできるようになるのかということ。
会社は、労働者の時間とお金を交換する仕組みであるところから脱却できるかが問われている。
…とはいっても、今の政権が提示している「残業代ゼロ法案」とは似て非なるもの、ベクトルが真逆です。

組織が、ヒト(=財産)を育て、使いこなす「器」になるべく、大きな変革を迫られているのが今の時代なんだという気分になってもきます。

・コラム「2030年の社会」→細かなディテールは、私の好みではないのですが、こうゆう社会は、少なくとも今よりは理想的な働き方が可能になるかもしれません。