北村薫『遠い唇』を読了。
いつものように、凶悪な事件も警察権力も登場しない、ミステリーが極上。
はーっと心地よい溜息をひとつ。
最終頁を閉じてみる。
そして、読了したなり、遠い昔に読んだ『北のオペラ』を紐解きたくなる。
「ああ、もうずるいなぁ!今頃いきなりっ!」と思うのである。
本書は、表題作『遠い唇』を含め、7編の謎解物語で綴った短編集。
私といえば、北村薫作品は、「長編」⇒同じ登場人物でつながる「連作短編集」の順で好き。
だもんで、最初「あっ!別テイストの短編7本?」とやや落胆。
がしかし、読み始めるうち、同じテイストの過去作品を思い出し、いちいち、これを読んだら、あの作品を再読しよう。
いや、つぎはこっちか?
と、1作読んでは、わが書棚で手持ちの北村薫作品を確認し、つまり、しっかり北村薫ワールドにはまる。
もしや、北村薫入門ミステリーって裏コンセプトあり?
と思うほど、一作読んでは、いちいち過去作品へ懐古させられるって感じなんです。
たとえば…。
・『遠い唇』と『しりとり』
⇒オトナっぽい作風ながら、ふと読みたくなったのは落語家・春桜亭円紫と主人公「私」が日常の些細を謎解きする『円紫さん』シリーズ。
どれも、ささいな謎が解けたときに去来する、切ないけど温かい気持ちが、読者にとってはささやかに快感であったなぁ…と。
本作もそんな読後感あるミステリー。
・『パトラッシュ』(と『ゴースト』)
⇒若々しくて爽やかなテイスト。
ああ、そういえばこんな雰囲気の女性の心理心情に焦点を当てた物語も描くんだよねぇ。
作家は、66歳のおっさん(いや失礼っ!)なのに。
と思いつつ、ちょっと飛ばして『ゴースト』を読んでみたら、ああ、これも大きく分けると同じジャンルかな?
…ふと読み返したくなったのは『八月の六日間』(←レビューしてますっ!よろしかったら。)とか『中野のお父さん』(←ああ、そういえばレビュー途中のままほってあるよぉ~)。
あとがきを読んだら、『ゴースト』は<『八月の六日間』の主人公の心を描く習作ーといった意味合い>なんだとか。やっぱりな。
・『解釈』
⇒もどって、笑って読みつつ、ああこれは北村薫流のSFだな。とすれば、『スキップ』『ターン』『リセット』あたりで描かれた世界観に似てるかな?
でも、もう読了したのはずいぶん前でうろ覚え、これは読み返さなくちゃなぁ。…となるが、我が書棚にはこのぐらい古い作品はもうないの(泣)。
買うか…うーん。
・『続・二銭銅貨』は、昭和初期の文豪を登場させて、うーん、今度は、『いとま申して』シリーズに食指が動くわぁ。(レビューありますっ!)
最終章『ビスケット』はズルすぎですっ!
いや、失礼!個人的見解です。
が、90年代の作品『冬のオペラ』のいきなりの続編!そのいきなりぶりに軽く驚いたもんでつい。
で、最初登場した、作家・姫宮あゆみという名にひっかかりがあり。
「うーん、この登場人物はどの作品…?」と悩んでいるうち巫弓彦登場!
「マジかっ!」…となった。
物語は、インターネットがこれほど日常に浸透していなかった90年代前半と今にひそかに焦点を当ててるところが興味深い。
そこに、なんでも知ってる名探偵の悲哀をやや感じつつ。
ああ、これはこの作家には珍しい、殺人事件だっ!
…と。
となれば、やっぱ『冬のオペラ』再読だろうよ。
しかし、わが書棚の北村薫作品の中に『冬のオペラ』がないっ。
「ああっ!マジかっ!」と大声を上げた。
追記:こんな風にだらだらとレビューを書きつつ。
実は、私は、いかに私が北村薫さんの作品が好きで、漏らさず読んでるかを、密かに自慢もさせていただいた次第です。
ふふふっ。