江戸は神田三島町にある袋物屋・三島屋の風変わりな「百物語」。
屋敷の白黒の間で、語り手一人に聞き手一人、ひとつの話を語って聞いて、その話は決して外に漏らさず。
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」て、物語がもう7作目。
その『魂手形 三島屋変調百物語七之続』を読了。
長く聞き手を務めた、三島屋主人の姪のおちかが近所の貸本屋瓢箪古堂へ嫁いで、さあどうするか?と少し心配。
そしたら、6作目から聞き手は、小旦那こと次男の富次郎に引き継がれ、ほんの少しだが物語の雰囲気が変わった。
いちばん大きな変化は、絵心のある富次郎が、語られた話を墨絵で描き、<あやかし草子>と名つけた桐の箱に封じ込め、それで聞捨てとする新スタイル。
物語の最後に、富次郎が、何を書くべきなのかを悩むシーンが好みです。
その描写が、物語ごとに描かれるというのは、個人的にもバリュー。
加えて、語り手が女性から男性に変わったことに合わせたように、語り手のキャラクターも変化した気がする。
それは、もしかすると、富次郎による人物描写が物語に色濃く反映しているからなんだろなぁ…と。
物語を彩る、年中行事や人々の装いなども読み飛ばすのが惜しくなる。
もうシリーズも7作目となって、この物語の細部を彩る江戸人の暮らしがいまさらながら非常に気になる。
それが、いまさら、ここにこの物語をレビューしよう!と思った理由。
物語の本筋じたいにはここにがあまり触れませんが、風俗や暮らしは抜き書きしておこうという魂胆。(←もしかすると、今後、1話目から順次再読していまさらレビューもするかもしれませんっ💦)
ってことで、以下よろしかったら(*’▽’)。
第一話火焔太鼓
・水無月の朔日、鉄砲洲稲荷への富士参り⇒母お民と富次郎。厄除けの麦わら蛇をぶらぶらさせて帰る
偶然出会った、かつての絵の師匠、蟷螂師匠は洒落た刺繍の花紋つきの黒羽織をさらりと着こなす。
・語り手の武士⇒美丈夫というのはこういうお方と富次郎。髷は細く、刷毛先が小ぶりの銀杏の葉のように少し開いている。武士の結う銀杏髷の特徴。薩摩の紺絣上布は、略式ながら夏の外出着。平織の角帯、着流し、白足袋。富次郎は、このなりで、網代笠をかぶって来たと想像している。
第二話 一途の念
・水無月の5日から神田明神様の天王祭。屋台、てんぷらと握りずし、おでん…。
・本作の語り手であるおみよは、名もない屋台で串団子を売る。
その屋台の庇に春は桜色、夏は若草色、秋は紅葉色、冬は藍色の暖簾が目印。
一本の串に3つの団子(米粉にひえや粟を細かく挽いたものを混ぜている)。その場で七輪で焼き、客の好みで砂糖醤油や醤油のたれ。
豊島町一丁目と神田富松町の間を入っていって、郡代様のお屋敷のほうへ路地を左に曲がる、行き止まりの屋台。
・この話の時期は、小暑も過ぎた夏の盛り。
第三話 魂手形
・本石町三丁目のお得意さんからの帰路、残暑に嬉しい西瓜を買う。
・おちかに子供ができたと知って、やや浮かれる三島屋の面々。
・白地の藍染の浴衣・松葉を入れた変わり亀甲繋ぎ縞に頭の髷を隠すように置き手拭い・浴衣の松葉を萩に替えた柄が両端に入っている、をした鯔背(いなせ)な老人。古希。
浴衣は藍色の柄が多く、手ぬぐいは白いところが多い、くすんだ抹茶色の角帯の結びめがきりりと上にはねているところも恰好がいい。
・唐草模様の風呂敷には、富次郎のための浴衣が入っていた。おなじ柄の浴衣にえんじ色の角帯
・天領地が魂の里。魂を成仏させるため旅する水夫は、おかみから魂手形をくだされる
さらに読み飛ばせない、季節を意識した生け花やお菓子の表現も。
これも、このシリーズが好きな理由。
実は、物語の筋はそっちのけで、この部分だけ拾い読みしたくて再読したりもする。
第一話
・黒白(こくびゃく)の間の床の間に合歓木を飾る。薄暮時に花咲くので、昼間は半開き。ホントは小暑のころが見ごろ。「今はまだつぼみも若うございます。今日おみえになるお客様がお若い方でしたら、ちょうど釣り合います」とお勝(⇒彼女は、禍祓いのチカラを持つ)
・茶菓子は、上品な練り切り。夏場は水鳥の形になる。香ばしい麦湯。
第二話
・富次郎は美味しいものが好き。たとえば、木戸番が冬になると芋のつぼ焼きも、市中で名高い日本橋通町花野屋の芋羊羹。
・語りのお菓子は、おみよのお持たせの砂糖醤油の団子。湯呑には番茶。
第三話
・床の間には、麒麟草を無造作にほおりこんだみたいに活けてある。
麦湯の湯飲み、おもたせの西瓜は食べやすいように大きめの賽の目に切って黒文字が添えてある。
ふーっ(*’▽’)。
やっぱ、いいねぇ。
うーん、やはり1作目から同じく抜き書きしてゆこうか…とうしよう。
↓何度も読みたくなるのは、やはり細部に魂が宿ってるから。江戸人の暮らしの一端を眺めながら物語を楽しむ。
宮部みゆき作『魂手形 三島屋変調百物語七之続』KADOKAWA