お草さんの解く日常の謎-紅雲町珈琲屋こよみシリーズってミステリィーの新境地かも

萩を揺らす雨

殺人事件が起こらないミステリィーが好きである。

だから、書店で萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ』 (文春文庫)に出会い、帯にあった<小粋なおばあちゃんが解き明かす「日常の謎」>というフレーズに強烈に惹かれる。

「日常の謎」なら殺人事件は起こるまい、しかも、見過ごしがちな日常のアレコレを解き明かす物語のほうが、その謎のリアリティと重要性が大きいように思えて私には面白い。
加えて、何を隠そう、長谷川町子さんの「いじわるばあさん」の昔から「おばあちゃん」活躍モノというのもひそかに好き。
さらには、文庫の裏表紙に、この主人公はコーヒーと和食器の店を営んでるともあって、よくある隠居老人による探偵モノという感じでないところも新しそう。

…ということで惹かれる要素満載で、実は私“本は図書館→面白かったら買う”のマイ・ルールを密かに持つ者なのですが、それを完全無視。
思わず買ってしまった。

書店から出て目に付くカフェに入り、とにかくも読む。

主人公の杉浦草さんは、年齢こそ75歳の設定だが、数ページ読んで、身内でもないのに「おばあさん」などと言ってしまうのははばかられるような方だと、まずは思う。

あの帯の「おばあさん」の文字っていかがなものか。
…まあ、そこが読者の琴線のひっかかりどころだからしょうがないか。

理知的で、考え方が柔軟で、そして好奇心と実行力の女性。
もちろん、主人公をそれだけ生きたひとに据えたのだからこそ、物語の過程には、草さんの抱えてきた人生の苦労や悲しみが見え隠れもし、そして、気になる謎を追求しようと街をうろうろするにいたっては、徘徊老人の汚名をきせられたり。
”老い”というものにきせられるステロタイプの思い込みにも翻弄される。
しかし、そこを乗り越えて明かされる「日常の謎」は、現代の諸問題そのものでもあって…。

謎と謎解きの設定ももちろんググッと惹かれる面白さなのだ。

しかし、75歳で尚、店を切り盛りして自立して、きちんと社会へもまなざしを向ける。
これは、福福とやさしいイメージを持つ「おばあちゃん」の物語ではなく、死ぬまで凛と自立した女性の話なのでもあるか…と。

で、続編を読みたくなって、しかし書店で見当たらず。
図書館で調べたらすぐに借りられたので、これから、その続きにはいります。

(そして、続編『その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ』 (文春文庫)は、やっぱり面白かったので、文庫になったのち入手いたしました)