一世風靡のデビュー作の頃は興味がなくて。
90年代の一時期、かなり夢中になって読んでいたひとり。
やはりいつも夢中で読む春樹さんとは、同じ村上性だけど、村上龍さんの過激さとか、躍動感とかは、この作家の醍醐味で、全然違う。
…いつまでも諦めない「若さ」みたいなものが、どの作品の根幹に流れているみたいな感じが好きだったのかも。
しかし、子どものための職業解説本「13歳のハローワーク」の成功があったからなのか、その後、小説よりも、なんだかビジネス書のヒトになったかなぁ…と勝手に思っておりました。
それが、久々に書店の小説コーナーの棚でコレを見つけ、ええっ!と思う。
村上龍氏は、1952年生まれの今年62歳。
いよいよ、同世代をテーマにした小説かぁと、ちょっと意外に思い、そのまま読み始めてしまったもの。
が、やっぱこのヒト侮れないなぁ。
物語は連作テイストの中編小説集。
同じ主人公は登場しないが、5話ある物語の主人公は、誰もが50代後半という人生の何回目かの曲がり角にいて、いままでにない大きな不安感みたいなものを抱いている。
その不安がどんどん増幅するような物語ながら、最後にちゃんと希望の光を見せるという展開がいい。
特に、小学校時代にちょっと袖ふりあった程度の友人が、余命いくばくもないカラダを抱えて再会する、第2話「空を飛ぶ夢をもう一度」が面白かった。
これは、私が思う、村上龍氏らしい物語。
なんか手に汗握る思いで読みました。
ちなみに、どの話にも、重要な小道具として喉を潤す液体が登場するのも印象的。
第一話 結婚相談所→紅茶
第二話 空を飛ぶ夢をもう一度→水
第三話 キャンピングカー→コーヒー
第四話 ペットロス→プーアール茶
第五話 トラベルヘルパー→緑茶
それぞれの主人公は、必ず、こだわって探した美味しい飲み物を持つ。
物語では、いろいろ迷って苦しんだのちに、希望の道を見つけ出すその時。
それらの飲み物が必ず傍らにあって、作家が「まあ、ゆっくり何か飲んで、落ち着いてみようよ」と言っているかのような気配を感じていいなと思う。
そして、そうして落ち着いた先には、また進むべき道が見えてくるよ。
と、同年代に対するささやかで優しいエールを送っているようにも思えるのです。
☆ちなみに、この物語は、NHKでドラマ化されるらしいです→公式サイト
6月からかぁ…。ちょっと楽しみ!