早いもので今日はもう6月1日、衣更えの日です。/旧5/4・癸卯

女学生のセーラー服からおまわりさんまで、6月1日は、制服を纏っているひとの服装がいっせいに黒から白へ。

…って、いまや、昭和初期の映画やドラマの中のお話になってしまいましたけど。

平成の現代は、臨機応変といえば聞こえはいいのでしょうが、暑さの度合いに応じてなんとなくダラダラとクールビスルックに移行してゆく感じ。
衣装がシャッキリ一斉に変わることなくなんとなくこの日を迎えるのが、なんとなく残念。

だから、私は、あえてこの日まで待って、冬の衣類を箪笥の奥にたたんでしまい、代わりに奥から夏物を出す。
なんて、悪あがきでしょうか?

特に、今年は、5月中旬ぐらいから、夏の気候。
冬物を触るには、ちょっと暑くるしいですが、奥から出てきた、白地の衣類は、まばゆいばかり。

衣更えしたその日は、前日までとはまったく違う1日が始まったようで、嬉しいものです。

衣替え

狭いアパートに住む私の場合の衣更えは、こんな感じでややあっさり。

しかし、古い日本家屋の多いご近所は、家中のものを一斉に替える、もっと大掛かりな衣更えをしているような気配です。

たとえば、窓の分厚い冬カーテンははずされて簾が掛けられる。
ちらっと見えた、縁側風の廊下には、座布団がならび、みんな白くまぶしい綿のカバー。
団扇や蚊遣りまで出てきて気の早い夏支度です。
…うーん、これって、やや覗きでしょうか?
すみません。

庭の物干しには、絨毯が干され、布団たたきでホコリ払いをした形跡あり。
ということは、敷物も夏仕様、たとえば、イグサ…なんかに換えたのかな?

子どもの頃に育った家では、そんな大がかりな衣更えはなかったけれど、衣服の入れ替えの樟脳の匂い。
それとともに、厚手の敷物が、さらさらのイグサのそれに変わった時の新鮮な驚き。
そんな記憶がよみがえります。

今年も、酷暑がやってくるかもしれないけれど、もう世界は明らかに夏になったという開放感。
やっぱり、四季のある国に生まれてよかったなぁ…なんて。

旧暦時代の冬から夏への「更衣」は4月1日

かつての「更衣」は、それはずいぶん折り目正しい年中行事のひとつでした。

平安時代の宮中では、夏の更衣の日、衣類や部屋の調度を、きっぱり夏仕様に変えるのが決まりだったようです。
ただし、衣類の方は、室町時代あたりに、やっと帷子(かたびら)を用いるようになったぐらいの変化はあったようですが、日本にも四季の衣装というのはなく、暑さ寒さに対しては、下着などで調節していたのだそうです。

しかし、それにも厳密なルールがあります。

日本年中行事辞典』(角川書店)なるもを紐解いてみましょう。
そこには、衣更えの作法が詳細に書かれています。

「四月一日から袷(あわせ)を着、寒いときは下に白小袖を着る。
これを白重といい、五月五日から帷子を着、涼しければ下衣を着る。
これを一重がさねという。
八月十五日からは生絹(すずし)、九月九日から綿入れを用いた。
十月一日からは練衣(ねりぎぬ)を着る」

ちなみに、「袷(あわせ)」は、裏地のある衣類のこと。
「帷子(かたびら)」は裏地のない単衣の衣類。
「生絹(すずし)」は、蚕からとったばかりの処理をしない生糸で織った絹地の着物。

生糸は、ニカワ質を落として白く光沢のある練糸にしてから織物にするのが一般的で、生絹は、そのニカワがついたまま織られ、やや黄ばみが強くシャリシャリとした手触りの布地だったそうです。

「綿入れ」は、袷の裏地と表地の間に綿を入れたものです。

公家や武家の行事だった「更衣」は、江戸時代に庶民にも

今度は、江戸後期の年中行事や風俗をまとめた『東都歳時記 2 』( 斎藤月岑 朝倉治彦校注書 東洋文庫)を紐解けば、以下のような記述がありました。

四月一日 今日より五月四日迄、貴賎袷衣を着す。今日より九月八日まで、足袋をはかず。庶民単羽織を着ず。
五月五日 貴賎今日より麻の帷子を着して、八月晦日に至る。
九月一日 今日より八日まで諸人袷衣を着す。
九月九日 良賎(=貴賎と同じ意味)今日より綿入れを着す。

現代は、衣更えといえば、衣類そのものを入れ替えますが、当時は着物。

実は、「袷衣」と「綿入れ」は、同じ服を仕立て直したものでした。
四月一日には、「綿入れ」の着物を解いて綿を抜き「袷衣」にする。
九月九日を迎えれば、逆に「袷」をほどいて、裏地と表地の間に綿を入れる。

日常着としての着物は、仕立て直して使うのが当たり前の時代の工夫でもあり、こんな営みから「四月朔日」=「わたぬき」さんという苗字まで生まれました。
こんなところに、「更衣」が日本人の美意識に少なからず影響を与えていた証があるようにも思えてきます。

それに比べれば、現代の「衣更え」など簡易なもの

1日で「えいやっ!」と全部入れ替え、あっという間に終了。

それでも、再度箪笥の引き出しを開ければ、昨日までの黒っぽい色合いが、白を基本としたさわやかな色合いに代わっているのが新鮮で、なんだか良いひと夏がやってくるような気がします。
夏の明るい色合いを、惚れ惚れと眺めてしばし楽しみ、衣更えが日常生活に自然と溶け込んでいたころが、なんとなく懐かしく楽しく思い出される一日ともなります。

◆今日は、2014年6月1日/旧暦5月4日/皐月癸卯の日/今日は三日月です
※月の出は朝の7:22、月の入りは21:26、晴れていたら日没後に西の空に爪のような月をさがそう!