七十二候の「腐草為蛍」の日々に、くちなしが咲く/旧5/18・丁巳

季節の暦七十二候は、6月11日から今日までが「腐草為蛍」
「くされたるくさほたるとなる」と読みます。

蛍の異名に「朽草(くちくさ)」というコトバがありますが、昔のヒトは、腐った草が蛍になると思ってた?

蛍は土中で蛹になって、羽化して枯草の下から出てくるというのが実際のところで、その様子を見て、腐った草が蛍に化けると思いこんだのでしょうか。
とすれば、なかなかに素敵な想像力です。

そして、それより、腐った草のあたりからもぞもぞ蛍が出てくるのを見かけるような、身近に蛍がいた時代がうらやましい。

今も、水のキレイな場所なら、蛍が光っては消え、消えたかと思うと光る…幻想的な様子を楽しむことも可能でしょうが、都会では、「蛍まつり」などと称したイベントにわざわざ出かけてゆかない限り、蛍の幻想には出会えません。

でも、その蛍まつりの情報を一応→東京全国

またも私流七十二候「梔子白」

「くちなししろし」です。

雨降りが続く、夕暮れ時。
家路を急いて近道の路地をとり、曲がり角を曲がったら、薄暗さの中にぼんやり明かりをともしたように、くちなしの花が咲いていました。

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この花の咲いた様子は、華やかというより幽玄。
暗闇の中、蛍が光を明滅させながら飛ぶ幻想的な様子とそん色ないような気がします。

これを夜の帳の下で眺めたら、さぞや…と思っていたら、真夜中の我が家のベランダにも一輪。

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ああ、今年もくちなしの季節がやってきました。

くちなしは、香り花のリレーも繋ぐ花です。

早春に「水仙」で始まった香り花のリレーは、沈丁花→ジャスミン&つつじ→柑橘の花と来て、この時期から、立派に「くちなし」が繋ぎます。

くちなしの香りは、押し付けがましさが無くて、いっけん弱い香りのようでいて、しかし、あたりの印象をがらっとかえる。

そぼ降る雨の中を歩いていてこの香りに遭遇すれば、梅雨のじわっと湿っぽい空気が、一瞬、爽やかな香りで染まってゆくような気さえします。

育てやすさもあるんでしょうか。

我がご近所の古い一戸建て民家なら、先の路地のくちなし以外にも、庭先にこの花を育てているお宅が多く、ふと、通りすがりにかすかな芳香を感じて、きょろきょろ見回す。
…と、つやつやした肉厚の葉っぱを背景にして点々と白い花を咲かせています。

しかも、こんな立派なくちなしの垣根までありまして…。

20100610垣根くちなし

谷中の名所、ヒマラヤ杉とみかどパンの4差路に向かう道のひとつを飾っております。

そこで、薔薇のごとくの大輪のくちなしみっけ!

20090630くちなし大きい

民家のある路地や曲がり角を、そんな風に、くちなしの香りに送られながら抜けて大通りに出ると、今度は、花屋の店先にもくちなしの鉢が。
数年前に、そうして買い求めた鉢が、我が家のベランダのくちなし。
毎日、水遣りをして、大きくなったら一回り大きな鉢に植え替えるぐらいの世話で元気に育ち、今年でもう9年、無事に花を咲かせているコトになります。

くちなしの変化も興味深く

くちなしの花は、桜のようにパッと一斉に咲くことは無く、一輪一輪、毎日順番に花開き、その律儀さがなんだか可愛い花でもあります。

今日は何輪咲いたか…などと、毎日観察していると、香りばかりか、花の変化も面白いことに気づきます。

初々しく真っ白だったのが、少しずつクリーム色に。
やがて黄色→黄色×茶のマーブル→薄茶→濃い茶色とその花びらの色を変えながら枯れてゆきます。
花びらが肉厚なためか、茶色になっても花としての存在感があるのが不思議。

20090606くちなしコサージュ

そのまま襟元にでも飾ったら、品がいいコサージュのようにも見えそうな、なかなかに手の込んだ枯れ方をするものです。

我が家のくちなしは、まだ一輪咲いたきりですが、もう少したってクリーム色になるかならないかのあたりで、枝ごと切って、一輪ずつ家のあちこちへ飾ります。

忘れた頃に花のあたりを通ってふわっと漂ってくるくちなしの香り。
外出から帰って玄関を開けたときも、ほのかに香りが迎えてくれます。

超期間限定なのが残念ですが、やっぱり、下手な芳香剤を置くよりずっと気が利いているような気がしてお薦めです。

くちなしの実のほうは、染料として有名。

お正月の定番、栗きんとんとか、たくあんの黄色を鮮やかにするのに使われるのがくちなしの実です。
ごく普通のスーパーに普通に売られているほど、私たちに生活に身近な染料。

しかし、それらの料理のあの鮮やかな黄色。
清浄な白い花のふりして、いったいどこにそんな色を隠しているのでしょうか?

しかも、布を染め上げると、食べ物を染めたのとはまたちょっと違って、赤みを帯びた濃い黄色になったり、実を発酵させることによって青色にもなるのだそうです。

その黄色が、儀式で皇太子しか着ることが許されない「黄丹(おうに)色」に似た色だったため一時ご禁制の憂き目にまであった。

そんな高貴なくちなしの黄色を、現代人は、たくあんとかに使っているわけですね(笑)。

くちなしは、言わぬ色

くちなしの名前の由来は、実に熟しても口が開かず=割れずにそのまましぼんでゆくから「くちなし」なんだそうです。

うーん、でもな、いまひとつ納得がいきません。

が、そこから「不言色(言わぬ色)」とも言われていたようで、この呼び名はなんとなく不言実行みたいな実直さをイメージして好感度が高いので良しとしましょう。

その口が開かない果実は熟すと黄赤色になって、染料のほかに、山梔子(さんしし)と呼ばれる漢方にも。

花は枯れるまで美しさを保ち、香り芳しく、しかも丈夫な上に、これほどさまざまに役に立つ。

くちなしはなんと多彩な花であることでしょう。

なのに、自己主張をするわけでなく、「いわぬ色」。
なにかひとりいっしんに日本の美徳を背負った花に思えてきました。

…なので、七十二候アイテムには、かなり適任!
私の選択眼もなかなかどうして…などと、しばし自画自賛するのです。

◆今日は、2014年6月15日/旧暦5月18日/皐月丁巳の日