デビューは、2002年『空を見上げる古い歌を口ずさむ』 (講談社文庫)。
私が、この作家に気づいたのは、2006年に出版された『東京バンドワゴン 』シリーズの第一作目。
それから、折に触れ、この作家の本を見つければ読んでいるはずなんですが、いったいこの作家の本は、あとどのぐらいあるのでしょうか?
今年は、小路幸也の発掘本(=しつこいですが、好きな作家の本なのに未読だった本)にも着手するハメにもなってますが、まったくもって終わりません。
とにかく多作すぎ。
作風もバリエーションに富み読者を飽きさせない。
いったい、この作家のネタの引き出しはどんだけ奥深いのでしょうか?
本作『ラプソディ・イン・ラブ 』(PHP文芸文庫)は、2010年の作品。
相変わらずのテーマは、血縁を超えた家族…なんですが、登場人物は、みなTVや映画にも出ている(いた)人気の役者。
日本の映画界を支えてきた名優・笠松市朗。
その息子で味のある名わき役といわれる俳優・園田準一。
前妻でありかって女優だった園田睦子。
笠松の二番目の妻との間に生まれた岡本裕は今や人気俳優で、その恋人二品真里ですら、若手人気女優だったりもする。
いままで、バラバラに暮らしていた彼らが、山と海に囲まれた、とある町の古い日本家屋に一時同居して、映画を撮る。
そこは、かつて、幼い園田準一が、父・笠松市朗と母・睦子とが住んだ懐かしい家でもあった。
大きな流れは決まっているモノの、台詞もほとんど決められていない、ただ偶然が支配する中で、名優・笠松市朗を中心に、ひとつの物語を綴ってゆく。
…という、作家としては、意欲満々の設定なんだろうなぁ…。
あっ、登場人物はもうひとり。
影の黒幕のごとく、その存在だけが見え隠れする、この映画の監督紺田。
…って、小路さんたら、こりゃまた、ずいぶん難しい設定にトライしたモノです!
だって、一つ間違うと退屈な話になりそうじゃあないですか。
と思いきや、第一章からして、「これって、もしや、ノンフィクション?」とか思えるくらいのリアリティ。
一緒に暮らせなかった家族が、なぜか同じシゴトを選んでるってところからして、嘘くさいと思って読み始めたモノの。
もう、これ以外ありえないだろうなと思う納得感。
いや、こうゆうやや複雑で、誰もが大きな爆弾みたいな秘密のひとつももって家族である…って、もうこんな風に全員スターじゃあないとありえないよね。
とか、読者はすっかりその気にさせられている。
物語の最後は、その中心人物・笠松市朗の死に際にいたり、集まっていた他の家族は、それぞれがそこで人生の節目をひとつ付けた。
そして、登場人物たちが、そこを去って、静かなエンディング。
そこまで読んで、なんかもう一度、最初から読みたくなる欲求すら生まれる、深い話。
なぁ~んか、大事なコトを見落として読み飛ばしてきた感じになっちゃうんですよねぇ。
この物語。
本気で、ドキュメンタリーテイストの映画に撮ったら面白いんじゃあないの?
少なくとも私は見てみたいです。
ああ、ただし、役者をすごく選びそう…なんですけどね。