アトミック・ボックス=原子力の箱なんてタイトルつけて意味深な…。確かにそうゆう内容ですが、エンタテイメント性も抜群!

池澤夏樹著『アトミック・ボックス』を一気読みで読了。

っていうか、書店で見つけた時は、もう平積みではなく、棚に並んだ本とともにひっそり1冊だけあって、あらら読みはぐっていた?
と若干焦る。

いや、出版したてではないけれど、まだ新しい2014年2月発刊の本。

しかも、池澤夏樹作品には、いまだかつてなかった(はずの)、ポリティカルサスペンスだと?
面白そう!

で、予想以上に面白すぎて、呼吸もせずに読み切った感じなのである。

アトミックボックス

追われる正義=ひとりの日本人vs追う悪=巨大な権力を持った警察

瀬戸内海の小島に住んで、漁師を生業とするオトコが、死に際、娘に託した謎めいた遺言…1枚のCDデータ。
それを巡って、壮大な逃走&追跡劇が幕を開ける。

逃げるのは、27歳の社会学者である娘=力のない庶民。
追うのは、巨大な国家権力=公安。

CDデータの中味は、戦後すぐに密かに始められた原子爆弾の開発計画の証拠。
父は、データとともに、これを世間に公表すべきか、おとなしく国家権力の側に渡してなかったことにするかの判断までも、娘に託したのであるが、それだからこその逃走劇。

というか、ヒロインの娘にとっては、その判断のために、原子爆弾開発プロジェクトの中枢にいた人物に会うための旅。
逃げているのではなく、捕まえよと命じている側の懐に向かってゆく話の展開がまずもって面白いのである。

監視社会ニッポンを、警察に見つかることなく逃げる

でっち上げの指名手配とあらゆる監視の手段を屈指して、追う警察。

だけれど、そのいちいちが後手後手に回って、ひとりの女性に振り回されるというのが面白く。

それほど、追手から逃げる方法が秀逸。
読者は、「よくぞ、この方法を見つけたなぁ」などと、いちいち膝を打ちつつ、読み進むのである。

逃走のキーとなるのは、ヒロインが培ってきた、少ないけれど、充実した人間関係と、自然を味方に付けた育ち方…かな。

権力と財力に対して、ヒトの信頼だとか、島の自然の中で遊びつつ身に着けた泳ぎや自然への知力のほうが凌駕するさまが小気味よく。
そこに、さまざまな国で、しなやかに生き、自然の畏怖をテーマとする作品なども生み出してきた、作家の見識みたいなモノを感じたのだけれど、どうかしら?

物語はフィクションだろうけど

なんか、これって史実なの?

とも思えてくる臨場感も魅力。

というより、次へ次へと、ヒロインの背中を追うように読み進み、エンディング間際。

そこで明かされる、一歩踏み込んだ真実は、本気でこのリアル日本にあったんじゃあないかなぁ…と思えるような内容でもあって、うーん。
と、そこで、感じたのは、全て終わった!
開放感っ!
という、サスペンスらしい読後感とはちょっと違う。

何か、重大な宿題を提示されたといったらいいか。

それも、この作家らしさかもな、と思う。

とにかく、物語のスピード感に併せて、走るように読み進む快感は、近頃読んだ、どの小説の面白さにも代えがたく。

読み切って、この物語が新聞連載であったと知って、ああ、そんなこと知らなくてよかったよ。
…とココロから思うのである。

新聞連載の読者は、毎日次の展開をおあずけにされて、よく暴動がおこらなかったものだと思います(笑)。