青い可憐な花をつかまえ「おおいぬふぐり」。
生薬にも食用にも盛んに活用しながら「どくだみ草」。
…と、ときどき、日本人のセンスを疑いたくなる植物の名づけです。
そのセンスの悪さも、この「へくそかずら」が登場すれば、もう右に出るものはいないのではないでしょうか。
柳宋民センセイですら、その著書『雑草ノオト』のへくそかずらのページで、
<漢字で書けば屁糞葛。植物の名前には時々ひどいものもあるが、中でもこのヘクソカズラほどひどい名前はないだろう。何しろ屁と糞であるから最悪である>
とややあきれモードで語っております。
その気の毒な花、「へくそかずら」が咲いております。
もう、ヒトが勝手につけな名前なんてどおでもいいさ。
…と言った風。
といってもヒトのほうは、こんな名前はいったいどこのどなたが付けたんだろうかと気になるばかり。
夏休みの自由研究よろしく、いつから使われているかを調べてみた次第。
たぶん、そんな昔から使ってないとおもうけど、一応…と律儀に『古事記』と『万葉集』を探してみたら。
…その『万葉集』にすでにこの名があってかなりびっくり!
<菎莢(ざうけふ)に 延(は)ひおほとれる屎葛(くそかづら) 絶ゆることなく宮仕えせむ>
と、高宮王さんに詠まれおりました。
屁がぬけているだけあってまだましでしょうが、屎は糞と同義。
ああ、こんな昔から、不名誉な名前で呼ばれていたんだねぇ…。
ちなみに、菎莢(ざうけふ)は、さいかちと呼ばれる豆科の樹木で、すっくとまっすぐに伸びて大きくなり、幹や枝にはするどい棘があるもの。
この歌では、菎莢(ざうけふ)=宮廷に喩えているみたいです。
で、詠み手は自分を、その木に絡みつくへくそかずらのようにいつまでも宮仕えしたいものですと、言っている。
ふーむ、へくそかずらは、すっかりとへりくだりの比喩あつかいかぁ。
しかも、寄らば大樹の陰ってゆうか、現代人と変わらない情けない価値観だわ…と、ちょっと失礼かしら?
8月にはいると、へくそかずら天国の様相
もちろんどこ吹く風のへくそかずらのほうは、自由人のごとく。
今頃になると、あっちの草むら、こっちの民家のフェンス、あらら街路樹の幹にまで絡まって…と道端のさまざまなところで見かけることができます。
絡みつくところさえあれば、どんどん元気に蔦を這わせ絡まって、いつしかあたりをへくそかずらだらけに覆う。
そして、中心の赤紫にひらひら白いフリルみたいな花弁をつけた可憐な花をたくさん…。
へくそかずら素手採取に、ご注意!
こうあちこちに生息するなら、所有者なしの雑草なのは明確ですし、「あらら可愛い!」といつものように少しいただいて帰りたくなりますもものの、そこがこの花の怖いところ。
花をよけ、葉っぱの茂ったあたりを掴んでずるずると蔦をひき、程よい長さで茎を千切ると…むむむ、なんだか田舎のおトイレの臭いがあたりから漂ってきて、はっと気づけば、手元に摘んだへくそかずらの臭いでした…ってことになりかねません。
こうして臭いを体感し、可哀想な名の由来をやや実感もする。
いや、ほんとーに臭いんですよ。
ちょっとびっくりしますのでお試しくださいおすすめです。
…ってすみません。
灸花に早乙女花って呼び方もあるらしいのに…
さて、その名の理由がほとほとわかったとしても「へくそかずら、へくそかずら」と、連呼するのも嫌気がさして、別の名前はないものかしら…と探してみたら、先の、『雑草ノオト』にありました。
<別に「ヤイトバナ」とも云う。花の中心が赤いところから、灸を据えた跡のようだということらしい。また、その花の可憐さから「サオトメバナ」とも云う。>
だそうです。
灸(ヤイト)花に早乙女(サオトメ)花。
ああ、こっちを本名にしてあげればよかったのになぁ。
へくそかずらは、注意喚起のための別名ってことじゃだめなの?
柳宋民センセイだって<この名を以って、汚名を雪ぐとよいだろう>って、最後にきっちり言い切っていますよ。
◆今日は、2014年8月5日/旧暦7月10日/文月戊申の日