『海の底』を今ごろ読んで、有川浩自衛隊三部作、ここに読了っ!

…って、今ごろですか!
と突っ込まれそうです。

実際、「そうよね、今ごろ、こんなリキんだタイトルにしなくてもさぁ」とも思う。

でもね、やっぱ、三作目も尋常ならざる面白さ。

ついでに、『塩の街』『空の中』も再読までして面白さを再確認。
ちょっと興奮している次第でしてあしからず。

海の底、表紙

もちろんデビュー作の『塩の街』をデビューから遅れるコト2010年に角川文庫にて読み。
むむむ、この完成度でデビュー作って、別名で作家歴長いヒト?と訝しがり。

続けて、デビュー第2作『空の中』もつつがなく読み。
シリーズもののようだけど、登場人物が被らないのがちょっと不満、どこかにちらっと脇役でもいいから登場させればもっといいのに、とか、脳裏を少しかすめもしたが、やがてそんな些末なことを忘れて爆読。

塩の街、空の中の表紙

ならば、そのままの勢いで『海の底』にいけばよかったはすです。

が、遅くスタートした有川ファンである私。
『塩の街』『空の中』を読んだ、2010年には、名作『図書館戦争』シリーズが、すでにスピンアウトモノの『レインツリーの国』まで出版されていて、そちらに移行してしまったのよねぇ…。

うーん、いまのいままで、実は失念していたのでありました。

ごめん、『海の底』よ。

っーことで、とにかく面白すぎるので未読のみなさんよみましょうね。
では。
…とこのブログを終わらせ、ここまで乗ってくると、同じ雰囲気をまとった『図書館戦争』シリーズを再読したくもなるわたくし。

それじゃあ、あんまりなので、なんでこの三部作(しかも自衛隊とつくからには通常一部のヒトにしか受けそうもない戦闘モノが…)が、こんなに万人受けする面白さなのか?

その分析を勝手にやってみたいと思う次第。

その1.ベースは、名作少女漫画にも負けないBoy Meets Girlな物語である。

偶然、スキルも高く、賢く、ルックスも良しな男性が自衛隊の陸海空に存在。
そこに、その彼が守るカタチで出会ったこれまた魅力的な女子が登場。
…って、ありえない設定(『空の中』のみ、自衛官が女性だが、まあ、まとった雰囲気は同じですね。)。

そして、彼らが、お互いを気にしつつも、素直になれず、物語の核をなす事件を乗り越え、恋も成就させるって、物語の背骨たる部分は、そうゆうよくある話です。

もう、女子が憧れる「壁ドン」シチュエーションが似合いそうな、こっぱずかしい話でもあります。

が、そこに、自衛隊とか、戦闘とかのエッセンスをまぶしてしまうと、分かっていながら、ついつい感情移入して読めてしま不思議。
ああ、どんなに年を重ねても、こうゆう話って好きなんじゃん私とか思ってしまう。

有川さんは、デビュー作から、すごい鉱脈を見つけてますね。

その2.ありえないSF的事件vs自衛隊を中心とした徹底リアリティの対比

まずは、ありえないSF的事件の設定が秀逸。
そこから、自衛隊が事件収束のために闘うという流れになるのであるが、もうこのアイデアからして他にないよと思う。

ちなみに、その事件を作品ごとに羅列すると以下のような感じ。

・『塩の街』→東京湾羽田空港沖の埋め立て用地に巨大な塩化ナトリウムの結晶が落下したことに起因して、ヒトが塩化し、死に至る病が蔓延。日本の都市部が機能不全に
・『空の中』→四国沖の自衛隊演習空域高度2万メートルで、試験飛行中の飛行機が突如爆発炎上。しかも立て続けに2機も。そこには、白く平たい不思議な巨大生物が生息していた。
・『海の底』→人間と同じサイズの巨大ザリガニが突如発生し、横須賀基地を占拠、ヒトを食らい始める。

さらにちなみに、三作とも舞台になる自衛隊と隊員属性(あたりまえですが、全部主人公のひとりです。)は違っていて、それもまとめてみると以下

・塩→舞台は陸上自衛隊&主人公のひとり(男性)は元航空自衛隊所属で航空戦競会三連覇という腕の持ち主。
・空→航空自衛隊&主人公のひとり(女性)は、戦闘機F15Jイーグル2のパイロット。その腕は天才的。
・海→海上自衛隊&主人公のひとり(男性)は、潜水艦の乗組員

で、おそらく、これら実在する場所&組織だからこその、徹底した資料性が感じられる描き方が面白い。
自衛隊はどんなところかの入門編としても読めそうなリアリティを感じます。

そして、自衛隊に興味がない私にでも、物語のメイン舞台となれば、俄然興味が出てくる工夫がニクイですね。

その3.家族の問題、あるいは、縦割り行政による弊害、未熟な若者の成長…etc

物語の背骨が、Boy Meets Girl。
骨格を作るのモノが、SF的事件と戦闘。

で、血肉に当たる部分に、日本の社会や個人が抱える問題などを持ってきて展開させる。

そこに作家の野心まで感じてしまいますが、作家の筆は、その部分に真摯に向かい、ある種の解決を導くというコトも忘れずにいる物語。

こうして、物語に深みをもたらし、必ずハッピーエンドなところも読者を裏切らない。

もう、エンターテイメントの鏡である。

その4.素晴らしいオトナの存在が必ずある。

若者たちの成長の物語という側面を膨らませるために、きちんと、彼らに背中で語るステキなオトナを登場させている。
彼らがいちいち説教臭くないという特長を持つのもいい感じである。

ちなみに、3作通せば、『空の中』で、高知の川魚の漁師を営み、若き主人公たちに並々ならない影響を及ぼす宮じいがステキである。

…ってコトで、これだけの要素が破たんもなく折り重なって、物語を描く。

ああ、面白いはずです。
と改めて…。

万が一、未読の方がいるなら、やっぱ損してると思うのよね。
あっ、それは今までの私か(笑)。