『君たちに明日はない』シリーズは、未来の働き方のヒントに満ちて

えーっと、今回は、またも発掘本(=しつこいですが、好きな作家の本なのに未読だった本)で恐縮です。

垣根涼介氏の人気シリーズ『君たちに明日はない』
シリーズ1から欠かさず読んでいたそれに、に新刊『迷子の王様: 君たちに明日はない』が出ているのに気付いたのが、つい最近。

「待ってましたぁ!」と飛びついたものの、なぁんと、そのひとつ前の『勝ち逃げの女王―君たちに明日はない〈4〉』が未読であったのでした。

…欠かさずじゃあないじゃん。

っーことで、とりあえずシリーズ4から読んでみた次第であります。

垣根涼介 勝ち逃げの女王

このシリーズは、リストラ請負会社「日本ヒューマンリアクト」に勤める会社員・村上真介が主人公。

彼が、さまざまな企業から依頼され、リストラ対象部門の社員を面接、早期退職希望に誘導してゆく…を柱にした物語である。

ちなみに、本シリーズの紹介コピーには、主人公村上真介に「首切り請負人」というキャッチコピーをつけるけれど、正確にはちょっと…いや全然違う。

実は、長年の会社勤めを早期退職プログラムを利用して辞めた私。
私自身は、退職プログラムが発表されるやいなや応募した口で、特に何の軋轢もなかったのだが、辞めたくないのに密かに「退職してほしいヒトリスト」に乗っていたらしい社員への面接は、陰湿そのものだった。

法律違反になるから会社はよっぽどのことがない限り、「退職勧告」はできない決まり。
それが、無駄な圧迫的面接や、嫌がらせにまで発展する。

私がいた会社は、普段は、いじめもなく、非常に暢気な会社だったが(それゆえに傾きかけたんでしょうが…)、いざとなると、こうなるわけねぇと、他人事ながら驚きまくったコトを今も覚えている。

つまり、今の日本の会社には、社員を辞めさせるノウハウはなく、たぶん、リストラも場当たり的ということである。

物語で巻き起こるリストラ面接は、一方的で暴力的なイメージを纏う「首切り」とは全然違う

実は、「首切り請負人」と、恐ろしいキャッチコピーで紹介される主人公真介の面接。
こちらは、深いノウハウの宝庫である!

被面接者に徹底的に寄り添い、会社から「もう要らない」と烙印を押されかかっているヒトの新しい未来を一緒に考えるイメージ。

シリーズ1が出た2006年から、物語の背骨にあるのは、そんなコトで、そこがこの物語が長く続いた理由かもしれない。
そのすぐ後に、日本はリーマンショック→東日本大震災と、経済的にも心理的にも踏んだり蹴ったりの時期がつづいたから、さらに、時代からも必要とされたというのもあるかもしれないですね。

このシリーズ4は、これまでのものと、微妙に雰囲気が違う。そこが面白かった。

たとえば、真介の面接を受ける人々3人は、みな、実は会社から不要と思われてはいない。
どちらかといえば、何らかの形で会社から残ってほしいと思われる人材であって、そうゆう展開は、たぶん初めてだと思う。

加えて、(たぶん)シリーズ初となる、面接シーンが登場しない章もあり、そこでは、真介の雇主である「日本ヒューマンリアクト」社長・高橋のミステリアスだった過去が語られる。

この手の物語ならちょっと禁じてだけど、結論から言ってしまえば、会社が不要と思っていなかった被面接者は、絶対残してくださいと依頼されていたヒトも含めすべて退職してしまう。

真介とすれば、成果を逃してしまったわけだけれど、章末ごとに漂う爽やかな雰囲気が、なんとも言えず好きだった。

「おれにはおれの人生があるように、被面接者にも、日面接者の将来がある。気分が揺れているのなら、ある程度までは説得を試みるが、おれの仕事のために、強引に捻じ曲げていいものではない」
と思う、主人公・真介。

私が、会社員という働き方をやめて、もう6年が立とうとしているが、たぶん、会社と会社員の関係はギクシャクしたままで、こんな柔らかな考え方で社員をとらえる余裕など、いまだないだろうな…と思う。

一方、今回登場する被面接者の人々のほうも、ちょっと進んだ感覚のヒトであったのが特徴的。

つまり、シゴトにはこだわるけれど、会社に依存するという発想がない(あるいは、そうゆう発想を捨てた)ヒトばかり。
そうゆう考え方も、会社勤めという働き方を選んだヒトの中では、非常に稀ではないかなぁ。

それでも、その新しさに、私は、これからの働き方やシゴトとのかかわり方のヒントを感じたりもする。
もしかして、シリーズ4冊の中で、本書がいちばん好きかもしれないですね。

といっても、シリーズ5は未読。
さあて、今度はどんな展開になるのかな?

読了後はまたココで!