2014年も大晦日。東北の街で、過ごしつつ、東京・王子の街に集まる狐たちに思いを馳せます。/12/31=旧11/10・丙子

2014年は、甲午(きのえうま)の年。
それも、とうとう大晦日を迎えました。

私は、実家の福島に帰ってきまして、あとは、紅白、年越し蕎麦に、除夜の鐘を残すのみののんびりモードです。

が、まだ、お節料理の準備中とか、年賀状が佳境とか言う方もいるかもしれない。
まさか、今ごろ大掃除なんてしてないよね?

たった一晩あけるだけなのですが、明日が新しい年と思っただけで、普通にはしてられない。
大晦日は、ホントに何かと忙しい一日です。

関東のほうでは、キツネたちが、なにやら始めるのだとか?

そんなヒトの慌しさの隙を狙いすましたかのように、この日、関東一円のキツネたちが密かに参集する場所があるんだそうです。

その場所は、江戸東京の北部に鎮座する王子稲荷神社の門前

そこに「装束榎(しょうぞくえのき)」という一本の木があって、大晦日の深夜、稲荷神の眷属(けんぞく)であるキツネたちは、その木をめざして集まって来る。
そして、その根元で正装に着替えるのだそうです。

…だから「装束」の榎。

身なりを整え、向かう先は、王子稲荷神社

「装束榎」の根元で身支度を整えたキツネたちは、そしてそこから行列をつくり、静々と王子稲荷へ向かうんだそうです。

そのとき、狐たちの行列は狐火を点す。
かつて、近くに住む農民たちは、その数で新年の豊凶を占ったとの言い伝えもあって、実際、当時を語る書物には、それが本当にあったことのように描かれてもいます。

たとえば、『絵本江戸風俗往来 』(菊池貴一郎 東洋文庫)。

<己(おのれ)若年の頃、二とせばかり見に行きしことあり。
実に聞くところに違わず数百とも思うばかりの狐火を見たり。
(略)闇夜の大晦日、北風は寒く木々の梢吹き、遠近寂寞として物音なく、かの狐火は見ゆるかとおもえば失せ、失せるかとすればまた光り、身の毛もよだつばかりなり>

…と、臨場感たっぷり。

江戸の地誌や社寺・名所などを挿絵つきでまとめた江戸のガイドブック『江戸砂子』にもこんな記述。

<年毎に刻限おなじからず、一時ほどのうちなり。
宵にあり、あかつきにありなどして、これを見んために遠方より来るもの空しく帰ること多し、一夜とどまれば必ず見るといへり。>

つまり、狐火の現れる時間は一定しないが、(略)一晩そこで待っていれば必ず見られるとのこと
…などとパッキリ言い切っております。

うーん、あながちホラとも思えず…。
ですが、どうなんでしょうか?

江戸の当時は見渡す限り田畑だけの場所となれば、夜にもなれば物の怪が出るのもふさわしそう。
傍には由緒ある王子稲荷神社…狐火のひとつも見えたと信じたほうが、とりあえず楽しいように思えます。

歌川広重「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」がその様子を今に伝えております。

この大晦日の狐火行列は、江戸人たちによく知られることにもなって、有名なところでは、浮世絵師・歌川広重『名所江戸百景』のひとつ「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」に幻想的な絵が描かれています。

…って、もう江戸時代にはホントにキツネが行列を作ってた=真実前提の物言いで恐縮ですが、広重の絵は、少なくとも当時の王子界隈の様子を今に伝えてはいる。
そして、この絵を見ていると、そんなこともあったかもなぁ
…と、素直に思えてしまうから不思議です。

そして、王子稲荷で授与される絵馬

こちらも、この大晦日の狐火をイメージして描かれたもの。

王子稲荷絵馬

広重の絵に負けず劣らず。

願い事を書いて、神社に奉納してくる…という本来の使い方をするのがちょっと惜しいぐらいの美しい絵になっております。

実は、この大晦日、「狐の行列」は行われています。

現代の王子稲荷神社の門前は、王子駅前。
JRも地下鉄も交差するターミナル駅にふさわしく、ビルが密集した繁華な場所となりました。

「装束榎」は、もうとっくに枯れてしまい、あとには「装束稲荷神社」と呼ばれる小さな社がたっているのみ。

装束稲荷

夜中まで煌々と明るい東京のごく普通の街には、狐火なんか、点ったとしても見えようにありません。

あっ!でも狐の面が…。

装束稲荷

実は、この面をかぶった「狐の行列」は行われているのです。

王子界隈の地域おこしの一環ではありますが、1993年から始まった「王子狐の行列」は、東京の大晦日を飾る興味深い行事の地位を持つ。
初詣のため交通機関が終夜運転となるのも手伝い、けっこう大きなイベントとなっているんだそうです。

こちらが実物大のお面。

稲荷のお面

ひっそりとした狐火は見える由もありませんが、こんな大きなお面を被って裃つけて、かがり火&提灯で、装束稲荷から王子稲荷まで行列は練り歩く。

年末年始は、故郷に帰って過ごすのが決まりなので、噂は聞けども、実は一度も見たことはありません。

今年の最後の1日は、時々、この狐の行列のコトを思いつつ過ごすことにもなります。

ということで、皆さまもよいお年を。

2015年の「乙未(きのとひつじ)」の年も、
どうぞこのブログをごひいきに。

◆今日は、2014年12月31日/旧暦11月10日/霜月丙子の日
◆日の出 6時50分 日の入16時37分/月の出12時59分 月の入 1時42分