8月1日は、室生犀星の誕生日。いつものように一冊もって誕生日を祝おう!…と思ったけど、今日は関連本をもう一冊。/8/1=旧6/17・己酉

8月1日は、室生犀星の誕生日です。

…って、いかにもずっと前から知っていたような書き様だけど、実は、昨日、ネットで調べ物をしていて偶然知った。

好きな作家に関しては、その誕生日に、作品の中から1作選んで持ち歩き、好きなページを拾い読みするを旨として、このブログの暦日記のコーナーにも登場させている。(といっても、好きな作家全員だと、多過ぎなので、思春期から好きな作家限定)

となれば、やはり今日は、室生犀星の本を一冊。

誕生日をお祝いしなくちゃだわと思った次第。

いろいろ考え、お祝いに読む1冊は、2冊になった。

『火の魚』栃折久美子の『美しい書物』

火の魚と美しい書物

…なんで?

これは知る人ぞ知る組み合わせ。

小説「火の魚」は、新作の装丁に金魚の魚拓を使いたいと固執しはじめた作家が、婦人記者の折見(おりみ)とち子に金魚の魚拓を依頼。
そのやり取りを経て、無事、その魚拓が採用されるまでを描いた短編。

書籍の初版は1960年ながら、ごく最近(2009年だった!)同じく「火の魚」というタイトルでNHKのTVドラマにもなった(故・原田芳郎氏が老作家、尾野真知子さんが編集者を演じた。名作ドラマだと思う)。

だから、室生犀星ならば『火の魚』と思う人も多いだろう。

しかし…。

この物語は、そのまま室生犀星と栃折久美子をめぐる実話

…というコトまで知っていたなら、かなりなファンと思う。
といっても、この場合、栃折久美子さんのファン…ってことなのかな?

室生犀星ごめんなさい(笑)。

ブックデザイナー(装幀家といったほうがふさわしい気もするけれど、栃折さんは、このようにこだわって言う)にして、ルリユール(製本工芸)作家でもある彼女は、若き日、まだ筑摩書房の編集者だった時代。
室生犀星の『蜜のあわれ』という本の装丁に使いたいと乞われ、自ら見よう見真似で金魚の魚拓を作った。

のちに、そのことが、同じ作家の「火の魚」という物語になり、そこに登場する折見とち子という名の婦人記者こそが、この栃折久美子さんのことだ。

『美しい書物』では、その「実話」が、珠玉の物語のようにつづられる。

美しい書物

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの

おそらく多くのヒトの室生犀星入門は、この「小景異情」と勝手に思うが、私もそのひとり。

興味を持ったのは、高校教師(物理だったか、数学だったか…。)の授業時の脱線話。
そうとう断片的に聞かされて、だけど読みたいなと思った。

さっそく出向いた、学校の図書室には、この詩が収録された『抒情小曲集』はなくて、代わりに借りたのは『火の魚』という短編小説集。

さっそく読むが…。
火の魚

幼い高校生(←私です)には、その面白さがまったくもって理解できず、表題作「火の魚」のみで読書挫折。
かろうじて、あらすじのみを記憶される。

こうして、その後、栃折作品に出会うまで、その魅力に気づかずオトナになったのでした。

『美しい書物』を紐解き、あっ、この話ってのは、あの時のアレ?

…ってコトで、室生犀星に再会…いや再読か(笑)。

そしたら、描かれた世界が、なんだかとっても慕わしく、懐かしい。

再読までの、長ーく回り道したようなことが、なおさら、好きさの度合いを増すんでしょうか?

…というコトでの2冊。

今日は、出かけませんし、涼しい部屋で、『火の魚』の中から、気になる短編を拾い読み。
もちろん、草木染の触媒でもあるかのように、巧みに、室生犀星の魅力を浮き上がられた『美しい書物』は、『蜜のあわれ』の装丁をめぐる冒頭部分を再読させていだだきます。

室生犀星さま。
お誕生日おめでとうございます。

そして、読み返すごとに魅力増す作品をありがとうございます。

そして、もし可能なら…。
長い時間をかけて、面白く読めるようになった読者のささやかな成長も祝っていただけると幸いです。
…って、少しずうずうしい?

◆今日は、2015年8月1日/旧暦6月17日/水無月己酉の日
◆日の出4時48分 日の入18時46分/月の出19時11分 月の入5時25分

↓「火の魚」は、この文庫に収録。「蜜のあわれ」と一緒に読めるのでいいかも。

↓「美しい書物」は装丁からしてマジ美しいです