茂木健一郎作『東京藝大物語』は、ちょっとほろにが、青くささが切ない青春物語。…だけど、爽やかさがなく、そこにリアルを感じたりして・笑

茂木健一郎作『東京藝大物語』を読了。

東京芸大物語

脳科学者として各種メディアで活躍し、著作も多数。
だけど、茂木さんが小説???
でも、なんだか面白そうとも思わせちゃうのが、茂木健一郎氏のキャラクターなのである。

そしてなぜ東京藝大???
こちらは、私の不勉強(←というのも、けっこう茂木健一郎氏のファンで著作も読んでたので、知らなかったのがややショック・笑)で、2002年から5年間、東京藝術大学で非常勤講師として講義を担当したことが、この小説のベースになっているからなんでした。

で、発売日を心待ちにして、さっそく読む。

初の小説というコトバにたがわず、初々しくかつ瑞々しい物語ぶりがすごくよかった。

物語は、茂木氏の芸大赴任の日から始まって、爽やかさのかけらもない学生たちとの交流の日々。

約10年ちょい前だって、平成の学生は、こぎれいで爽やかなんじゃあないの?
…と思っていたのが、単なるステロタイプによる思い込みだったか?
いや、そのころから藝大のあたりはよく足を運んでいたが(←近所なので上野公園やトーハクに行く際は、よく通る上に、卒展も文化祭もいったことあり)、けっこうみんな爽やか系だぞ!

…といぶかしく思うぐらい、登場人物がヘンなのである。

主要人物を、物語そのままの表現で抜き出せば…。

・赤ら顔でへらへらと近づいてくる「ジャガー」
・鳩のように首を動かしながらポツポツと話す「ハッスン」
・突然よくわからない行動を起こし、全身で芸術論を戦わせる「杉ちゃん」

しかし、そのへんてこなキャラクターが、不器用に考え動く日々が、物語をほろ苦くもし、ちょっと感動も誘う。
…ってところが、うまいっ!と思う。

そして、語り手である茂木先生のほうがずーっと若々しくて爽やかなイメージを纏ってたりして、それってちょっとずるくない?
…とも思う(笑)。

講義には、名だたるアーティストがゲストとして登場し…。

それが、また羨ましいほどのバリエーションぶり。

たとえば…。

・『にっぽんの台所』の束芋氏には、芸術ではなく、90分の講義全部を就職活動のことに費やされ、学生たちは、<忘れようとしていた日本社会の「現実」を呼び覚まさせられた>

↓ちなみに、束芋氏の作品。これいいです。

・美術家・大竹伸朗氏の講義は、<おまえら分かっているのか!東京藝大なんて来ているようでじゃ、アーティストとすてだめた、そもそも美大なんか意味がないっ!>ではじまって、講義のあとの飲み会でなぜか一人の学生が挑発⇒しかし、大竹氏に一発で成敗されるという顛末まで登場。
(…これって実話?)

ちなみに、この方は、一般的には現代美術の旗手とか言われるヒトです。このインタビューなんかはすごく人柄と活動内容がわかるかも。
個人的には、この取り組みが好き。

・やっと来てもらったベネッセアートサイト直島の福武總総一郎氏の講義すら、<東京なんて嫌いだ>と学生の度肝をぬく叫びではじまり、<東京の真ん中の、こんな芸術大学で学んでいても、アートのことなんかわかりはしない>と続く。

そして、なんと!
・今は亡き、荒川修作氏まで講義を担当

荒川氏「お前たちいいかっ!こんな教室、爆破しちまえ!」
学生「オオーッ!」
という感じの講義が展開してしまう。

(…これも実話?面白すぎです。)

ちなみに、荒川修作作品ではヘルメットをかぶってそこで遊ぶ(じゃないと若干あぶない)奇想天外な「養老天命反転地」はあまりにも有名。

他にも、アーティスト内藤礼、森村泰昌をはじめ、作家、ギャラリー主宰者、作家、研究者などバリエーションの渦。

オープンマインドな茂木氏の人脈ってのもあるのだろうが、さすが、藝大の講義だなぁ。
…と思う。

講義のあとは、恒例の飲み会。

場所は、東京都美術館のわきにある、児童公園内みたい?
かつて、夕暮れ過ぎたその界隈は、暗くて危険なイメージだった場所で、そこでも、数々のエピソードがくりひろがる。

たまたま、この本は、そのあたりに新しくできたスターバックスにて読了。
…いや、半分わざとですね。

物語が後半に差し掛かるにつれ、なんだか離れがたくなって、その場所に足を運んでみたくなったのでした。
公園は、若干こぎれいになってそこにあり。

おそらく今は、日が暮れた後も、スタバや他新しくできたカフェのせいで暗い印象はあまりなく。
こっそり飲み会するにはやや気を遣う場所になりつつあります。

付録:いろいろ探していたら、こんなものみつけました。


本書の主人公「ジャガー」のモデル(というかそのまま?)である植田工氏と茂木氏のこの本をめぐるやり取りがいい感じです。
もし、映像化されたら、「ジャガー」役は、荒川 良々さんにやってもらいたいんだそうです(植田さん談)。
ちょっとほのぼのしました。