やぁっと、露草見つけた!/旧5/27・丙寅

梅雨の合間の晴れた日の早朝。

眠気覚ましに散歩に出たら、やっと青い花咲く露草を見つけました。

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この花は、朝顔などと同じく早朝に咲いて、午後にはしぼんでしまう花なので、朝あわただしい日々にはあまり見つけることはできません。

それにしても、今年はなんだかその姿を見るのが遅かったような気がするのは、「つゆくさ」だから梅雨に咲くと勝手に思い込んでいたからだったようです。

実は、この花は梅雨明けを迎える頃に咲き始め秋口まで咲く、正真正銘「夏の花」なんだと、柳宋民センセイの『雑草ノオト』(ちくま学芸文庫)
にありました。

なあんだ、花咲く時期を勘違いしていたのが、なかなか露草に出会えなかった理由のようです。

落ち着いて思い返せば、露草の花咲く記憶は、ちゃんと、子供の頃の夏休みとともに始まって、新学期とともに終わっていたようにも思います。

それは、夏休みのラジオ体操のおかげです。

今でこそ、毎朝行われることはないようですが、かつては、夏休みが始まったその日から近所の公園などで子供たちが集まりラジオ体操で1日がスタートするのが夏休みの過ごし方の決まりでした。

特に、出席ハンコを捺印する係の上級生は、集合時間より早く行ってみんなが来るのをまたなければいけない。
ある年、その地区では、最上級生は私ひとり。
毎日サボることもままならず、ラジオ体操の出欠はんこ押しの名誉に浴していたものです。

だから、夏休みは、学校がある日々より、やけに早起きをして家を出て、まだ誰も来ない公園の隅っこのほうで、毎朝、雑草を眺めながらみんなを待っていました。

そして、その雑草の中には、確かに、夏休みの間中、毎日律儀に咲く露草がありました。

ことに、その淡いくせに鮮やかな青色が子供心にも美しく思え、ラジオ体操が終わったら少し持って帰ろうといつも思うのですが、はがき大のカードに紐を通したのを首から提げて、町内の下級生たちがやってくる頃にはもうすっかり忘れている。

あとで、思い出して、採りに行っても、もう露草の青い花は小さくギュっと縮んでいました。

露草の青は、押し花にしても花の色が薄れず鮮やかな青のままです。

露草の花から搾り取った汁は、古代には、染料としても使われ、それで衣類を染めていた時代もあったそうですから、押し花の青がそのままなのもまあ当然といえば当然でしょうか。
ただ「露」草の名のイメージどおりに、その青は非常に褪せやすくて、水にさらすと消えてゆくほどの儚い色、平安時代になれば、もう着物を染める用途に使われることはなくなります。

そして、清少納言あたりには、『枕草子』「草は…」の段で、他の草草が“いとをかし”とか“いみじうめでたし”と散々ほめられているというのに、その最後の最後に「鴨(つき)草。うつろひやすなるこそ、うたてあれ」と。

つまり、「露草は、(色が)褪せやすいから、いやだわ」とかまで言われる始末です。

しかし、一方、その鮮やかなのに消えやすい性質を生かしてその栽培種が、友禅染の下絵を描くのにずっと利用されてきたという歴史もあります。
露草から作られる染料は「青花」と呼ばれ、友禅の職人によって青一色で描かれた下絵は、それだけでも非常に美しいものです。

そうそう、露草は、古くから日本人に慕われきた花ですから、その名前の数も尋常ではありません。

清少納言が使った「鴨(つき)草」のほかにも、鴨跖草(おうせきそう)、鴨頭草(つきくさ)、月草、碧嬋花(へきせんか)、ほたる草、かまつか、かま草、うつし花、青花、ぼうし花、百夜草…。

ある、同級生が夏休みの自由研究でて提出したのは、押し花でした。

そかも、そのほとんどが「露草の押し花」。

他の夏草も多少あったような記憶もあるのですが、A4サイズぐらいの画用紙の束をブルーのリボンで綴じて、そこには、同じ「露草」の押し花だけが並んでいた記憶。

その子は、美しい青のまま残るのが面白かったんでしょうか?
毎日淡々と、青く小さい花を摘んでは、紙に挟んで重しをし、取り出しては画用紙に貼る。
それぞれには、律儀に貼った日の日付が書かれてあるのみです。

もちろんやんちゃなオトコの生徒には、囃し立てられていたけれど、子どもの手で作った簡易な押し花であっても瑞々しい青が並ぶ様子。

それは、オトナになっても決して忘れない美しい思い出です。

そして、これだけ豊富に名前を持つものだと、その時知っていたなら、その日付の下に、これら名前をひとつひとつにつけてあげられたのに…と。
時々、のどかな後悔とともに思い出したりもする。

…えっと…つまり、そして。
またも露草の押し花をして、その青さを確かめよう…と。

その、幼い日々を思い出して、青い花を目前にうずうずとしている自分がいるというわけです。

◆今日は、2014年6月24日/旧暦5月27日/皐月丙寅の日