女郎花、尾花、撫子、藤袴、葛、萩とともに、秋の七草に数えられてはおりますが、夏本番にもならないうちに「桔梗」の花が咲き始めました。
今の時期、裏路地をそぞろ歩けば、地植えのものが木塀や垣根の隙間から道に顔を出していたり、下町ではおなじみの発泡スチロールを利用した寄せ植えの中にも桔梗が咲いているのによく出会います。
最初、うす緑の紙風船みたいなものがポコポコではじめ、やがて白くなって、紫に変わり、花びらの端っこ同士をぴったりとつなぎいだまま大きく膨らむ。
すでにこの状態で花としての造作は面白く。
だからかどうか、英名では、 “balloon flower” というそうです。
ずいぶんぷっくら膨らんだなぁ…などと思っていると、ある朝、パッと目覚めたようなたたずまいで開いている。
そして、咲いてしまえば、今度は、紫の星がきらめいているような風情で “star flower”と呼んだ方が似つかわしい。
この花は、つぼみも花も存在感を持ち二重に楽しめるものでもあるのです。
桔梗は、日本の自生種にして、絶滅危惧種?
桔梗は、日本全土を含め、朝鮮半島から中国大陸、東シベリアあたりまで、日当たりの良い山野に咲く自生種だそうで、この星のような花の造作を見ていると、桔梗野原があったならたくさんの紫の星が降ったかのようにみえるものだろうか…などとうっとりと想像して楽しみます。
が、実は、残念ながら、この花は日本では絶滅危惧種のひとつなんだそうです。
な、なんと!
下町の鉢植えにはたくさん咲いても、野山で出会うのはいまや稀なよう。
園芸用の採取に草地の開発…とおなじみの人間による植物いじめの理由が減少の主要因なんだそうです。
「ああ、ごめんよ桔梗!」
…といまさら、園芸種の桔梗にむかって謝ってみても詮無いことでしょうか。
桔梗関連の、豆知識をちょっと
「萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌の花」
これは、『万葉集』にある、山上憶良の「秋の七草」を詠んだ歌です。
…って、あれれ、桔梗がみあたりませんね?!
実は、万葉集が詠まれた時代には、まだ日本には朝顔は無いはずで、「朝貌の花」こそは桔梗なんだそうです。
知ってました?
まだ諸説があるそうですが、植物学者の牧野富太郎先生がその著書『植物一日一題』 (ちくま学芸文庫)のなかで
「この歌中のアサガオを桔梗だとする人の説に私は右手を挙げる」
ときっぱり、言い切っていますから、牧野ファンとしてはまず間違いがないと思うことにします。
蔓性のいわゆる朝顔も桔梗も、夏の早朝に咲くのが共通点。
このふたつの花は、なんとなく共通点が多いようにも思えます。
たとえば、暑くなる前の早朝にうろうろ散歩などして、涼やかに咲くのを見つけて、「おおっ!」と嬉しく、幸先良く感じさせられるのもやはり同じ。
そして、秋口まで、のんびりゆっくり咲き続けている…その風情もなんとなく似ている。
うーん、先に牧野センセイの言葉を引き合いに出したくせに、科学的根拠はまるで無しの理由ばかりで恐縮です。
ですが、確かにこの花は、夏の良き1日のスタートを飾るのにふさわしい爽やかなたたずまいをもち、いっとき「朝顔」と呼ばれるにふさわしい花であったように思えます。
◆今日は、2014年7月4日/旧暦6月8日/水無月丙子の日