海堂尊作『ポーラースター ゲバラ覚醒』読了。
最後のページを読み終えて、ハーッとため息ついてみた。
というのも、本書を読了しても、まだチェ・ゲバラの若き日々の話に少し触れたのみ。
もうただひたすら長い前ふりなのである。
チェ・ゲバラが誰なのかを知らなければ、もう十分に面白い南米を舞台にした青春大河小説。
しかし、彼が何者かを知っているから、1冊長々読んでも、主人公はやっと大学を卒業し医者になったばかり?
えっ?
となると…と、冷静になって調べてみれば…。
おおっとっ!
2017年以降、第2部中米放浪編、第3部カストロ立志編、第4部の革命編と、あと3冊分も物語は続く…なんだってぇ?
ああ、待ちきれませんよっ!海堂さんっ!
チェ・ゲバラ人生のほんの前哨戦というのに、
濃すぎる物語だ!
チェ・ゲバラは、1928年生まれのアルゼンチン人。
医者であり、革命家である彼は、フィデル・カストロ&ラウル・カストロ兄弟とともにキューバ革命の指導者として有名である。
その後、1967年にボリビアでとらえられ処刑されるまで、世界の革命に参加した孤高の獅子のような人生。
計算してみれば、来年2017年はチェ・ゲバラ没後50年。
そして、2018年は生誕90年なのである。
…なるほどね。
『ポーラースター ゲバラ覚醒』が2016年に出版されたのは、その前哨戦でもあるのか。
しかし、それにしては、アルゼンチン⇒チリ⇒ペルー⇒エクアドル⇒コロンビア⇒ボリビアと、ほぼ南米の西半分を網羅した舞台を主人公は疾走。
読者は、普段なじみのない南米の地図を見ながら、時々、当時の情勢を確認しつつ、もうよたよたと追いかけてゆくのである。
第一弾は、青春の一時期に、青年エルネストが、チェ・ゲバラへと目覚めてゆく物語。
濃ぃ~い、イケメンの面構え。
そこに☆マークのベレー。
その姿を見れば「あっ!チェ・ゲバラだ」と誰もが思うほどに有名な彼だが、その名は、あだ名。
彼が、初めて会った相手に、いつも親しみを込めて「チェ(=やぁ)! エルネスト・ゲバラだ」と挨拶をしたのを受けて、いつしか「チェ・ゲバラ」と呼ばれるようになったのは知る人ぞ知る話だ。
本書は、革命家に目覚める前の彼が、大学卒業までの数か月をつかって、親友であるピョートルと南米大陸縦断の旅に出て、1940年代のまださまざまに落ち着かない激動の地をめぐり、革命に目覚めてゆくまでの話。
作家・海堂尊は、本書を書くにあたって、アルゼンチン、ボリビア、メキシコ、コロンビア、エクアドル、ペルー、チリと、若き日々のゲバラが訪れた国を取材し、膨大な資料を読み解いた。
といっても、もちろんドキュメンタリーではなくて、フィクションとしてのゲバラの物語。
しかし、その裏付けがあってのリアリティが素晴らしい。
点々としか、なかったチェ・ゲバラについての知識と。
もっと知らなかった南米諸国の、地理・歴史・文化…などなど。
シリーズ4冊読み通せば、なんとなくつながってゆくんじゃあないかと期待大なのである。
10代から20代前半のエルネスト・ゲバラは、(あくまで物語上では…だけど)アルゼンチンでは、時の大統領フアン・ペロンとその夫人エバ・ペロン(エビータ←97年にマドンナが主演した映画でこの存在を知った。)と親交を持ち、アルゼンチンの巨匠作家(と、勝手に思っているが、ファンゆえに)ホルヘ・ルイス・ボルヘスとあって、彼から著作をもらったりしている。
なんか、そのあたりが、フィクションかノンフィクションかは不明だけれど、少なくとも、もう人生のスタート地点から、英雄のエッセンス満載なのである。
善悪しはあるとしても、こんな風に、各所で登場する、南米の巨人たちとの絡み方がドラマチックゆえに、それを原動力としてどんどん読める。
海堂さんは、現地取材中に…。
当初、物語の序章でしかなかった青年期のゲバラの話を書くうち、物語が膨らむことをとどめることができなくなる。
そして、「これは自分なりのキューバ革命通史を書くしかない」と決意したんだそうだ。
うん、確かに!
この膨大な序章=青年期のゲバラを知ってしまったら、もう、あとは首を長くして、続きを渇望するしかないよねぇ。
バチスタシリーズの第一作を読んで、続編こいっ!
いっこくも早くっ!
…と、妙な飢餓感に襲われたのをちょっと彷彿。
ああ、いやな作家だねぇ。
もおおおっ!
↓せめて、第2部が出てから読めばよかったと後悔。続きをすぐ読みたいんだよねぇ…。