「ダメ女」の文字に腰ひけ遠巻きに。しかし「奇跡の料理教室」には惹かれまくって、結局読む。で、読んでよかった一冊!

キャスリーン・フリン著『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』を、付箋と格闘しつつ読了。

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』ってさぁ、原題は「The Kitchen Counter Cooking School」ってあるじゃない?
邦題が、ちょっと煽りすぎ?

奇跡の料理教室

それに、フライパンを持ち、エプロンなど身に着けてはいるけれど、明らかに料理を楽しんでなさそうなイラストが気になるなぁ…。
と、あれこれ、ココロの中で御託を並べ気になっていつつも、やや距離を置いていた一冊。

ある日、友人が、「面白いし、たぶん、あなたにぴったりの本かも?」と、貸してくれた。

なになに「私にぴったり?」だって?
「ダメ女が…?」とかつっこみつつも、けっきょく、夢中になって読み進み。

奇跡の料理教室

ひとつのドキュメンタリーとしての面白さはもちろん、料理に関する価値ある知識が随所にちりばめられていて、読み進みつつ、付箋と格闘することになる。
もちろん、この一冊を、書棚の目立つ場所に置き、折に触れ開いて、日々の料理の参考にするつもり。

…と、ああっ!これって借りた本だ!
(さっそくアマゾンでポチり、私の本が手元に着たら、付箋をせっせと張り替えます。ってか、借りた本だってのに、こんなに付箋だらけにしてごめんよぉ~!←紙面に付箋のノリが微妙に残るので借りた本では実はご法度)

本書は、自分を「ダメ女」と思わされてる女たちが、料理の技を身に着け少しずつ自信を得てゆく物語。

確かに、料理ができない。
してない。
…って思いは、他人は何も思ってなくても、自分で自分をダメなやつだと決めつけてしまうかも?

あるある、その思いは、私にもあるよと、最初は、登場人物たちへの親近感。
自分で料理して自分を健やかに養うって、大切な生きる術なのに、便利すぎるこの時代にあって、いちばん奪われていることだものね。

しかし、インスタントや加工食品、あるいはデリバリやお総菜など出来合いの食生活に満たされたアメリカ事情は、日本のそれより深刻かも?
…と思う。
いや、いまや日本も同じか?

個人的には…。

数年前に少しシリアスな病を得たり。
そもそも、会社員という働き方を辞めて、お金より時間の豊かさを選択したり。

そんな日々には、割高な「インスタント食品」「出来合い」は避けたいし、カラダのために素性のわかる素材で「自炊する」ことは重要。

だから、この本に登場する女たちに比べ、私にとっては料理は、そんなにハードルは高くなく、日々の営みにはなっている。

それでも、この一冊。
私にとっては、点で知ってた料理の知識を線に、そして面へと盤石にしてくれる良書。

料理がまったくできないと思っている人も。
一応やるけど、超得意ではない。
いやいや、あるいは、かなり得意、プロです…って人にだって、読めばそのスキルと食生活を一段上へバージョンアップしてくれる…はずと思う。

書店で見たら、怯むことなく、プロローグの「スーパーのカートには人生が詰まっている」を読んでみよう。

著者が出向いたスーパーでの、ある怪しげでおせっかいな行為が、ある主婦が買おうとしていたカートの中身をよりお安く、健康的な食品に替えるまでのショートストーリー。
この短い序章にあるストーリーが、本書のすべてを語ってもいる。

料理の知識をちょっと知っているだけで、<スーパーでの買い物はインスタント食品を買うのと同じ金額で10人以上をもてなす量の野菜を買うことになる>くだり、ちょっと感動的である。
私も、さっさとここだけでも読めばよかった。

著者のキャスリーン・フリンが開いた料理教室の教えは、根源的。

たとえば、教室の初日が「包丁について」というのは象徴的である。

教えはこうだ。
「包丁を買う時に考えるべきふたつのキーポイント。それは鋼であること。そして“フィーリング”です。」
「本当に使う包丁だけ買う。最初は性能のいい万能包丁。それに追加して、果物ナイフ、それからパン切り包丁」
「もしキッチンの中のものに投資するぐらいだったら、そのお金でよい包丁を買うほうがいい。ちゃんと使えば20年から30年はもってくれるから」
そうして、疲れない効率よくモノを切れる、包丁の握り方へ。

さらには切り方。
「正しいカッティング技術は、千切りと角切りにあるといっていいでしょう。これだけです。」
ふーむ。確かにな。

この奇跡の料理教室の教えは、一事が万事こんな風。
複雑だと思っていた料理の単純化。
そして、ひとつのセオリーがバリエーションを生む教え。

以降、章が進むごとに、テイスティングの重要性は?
ソテーの正しい意味は?
鶏肉は、丸鶏を買ってさばいて使うその意味は?
食材をミニマルに購入する方法は?
…etc。

と、“それさえ知ってさえいれば、怖いものなし”的な知識を会得し、やがて、「ダメ女」だった痕跡すらもなくなってゆく…。

こんな料理教室って、マジ他にはないんじゃない?

「私だけの味のキス」というコトバとその意味が好き。

「奇跡の料理教室」の教えの中で、自分の味ソースを作るレッスンが、私としてはいちばん好き。

味のキスとは、味のプロフィール探しのことで、たとえば…。

・アジア風料理に共通する味は?⇒ごま油、醤油、米酢
・イタリア料理は?⇒オリーブオイル、イタリアンハーブ…。
・カリビアンは?⇒ジャーキー風味の香辛料、ホットソース、ライム、ココナツ
・テクス・メクス料理は?⇒コーンオイル、チリパウダー、にんにく、クミン、少しのライム。

…みたいに、味を想像して探って、試してゆくこと。

ふーむ、このゲームみたいなやり方さえあれば、もうインスタント調味料は不要じゃあないか?
しかも楽しい。

いいねぇ。

ってことで、今晩は、この「味のキス」に出てきた、オリーブオイルとレモンジュース、塩、こしょう、そして乾燥タイムを入れたボウルに鶏むね肉フィレを入れて放置⇒ソテー⇒チキンスープを入れて蒸すに、決定。

そうなんですよねぇ。
読んでいると、もうすぐにでもキッチンにたって試してみたくもなる一冊。

この一冊を読むことで生まれてくるエネルギーは、ちょっとすごい。

↓一家に一冊あってもいい。