600ページを超える『地図と拳』は、日露戦争から第二次世界大戦まで、中国東北部にあった満州を舞台に描かれた長大な物語。読了して感じる多幸感と充足感(*’▽’)。

小川哲作『地図と拳』を、充足感とともに読了。

いやぁ~長い長い物語だったぁ~。

地図と拳

時代的には、日露戦争から第二次世界大戦までという長さもあるけど、描かれる奥行きも深く。

描かれた歴史的事実に関しても、中途半端は理解しかもたない読者(←私です)としては、ここで読み飛ばしてしまっては、物語の理解に不足をきたすかも?
と、いちいちリアル歴史を調べつつ挑む。
だから、なかなか前に進まない。

この本は、600ページを超える分厚さだけど…。

冒頭を一読すれば、難解さはない平易な文章。
エンターテイメント性も十分な気がして、どんどん読めそうな気配も濃厚。

だから、最初は、1週間もあれば読めるかなぁ~と思ったものの、そんなこんなで、読了まで、20日もかかってしまいました。

その間、他の作品を併読する余裕もなし。
しかし、おかげで舞台となった満州のこと。そして、この時期の歴史の復習もできてしまったので良しとしようか。

「地図」は未来を見渡す冷静さを、「拳」はすべてを破壊する暴力を。

あるいは、「地図は希望」を、「拳は戦争」を。
…と言い換えてもいいだろうか?
読み進めるうちに、私の中に芽生えたタイトルへの解釈はこんな風。

読者の数だけ、タイトルに対する考え方や印象はあるのだろうけど、私は、この解釈を長い読書の旅の羅針盤のようにして進んだ。

舞台は「満州」、そして後の日本の傀儡国家「満州国」だか、馴染みの話はあまり大きく描かれない。たとえば、最後の皇帝 溥儀の存在もあっさりとしか描かれなかった。

というより…。

この物語には突出した主人公が存在せず。
登場する誰もが存在感をもって描かれるというのが、新しい。

軍人、密偵、都市計画を立てる設計士たち、抗日のゲリラ(?)、最後は、ある目的のためにスカウトされた泥棒などまで登場し、物語は、その登場人物が描かれる毎に彩りと深みを増してゆく。

最初、通訳の学生として登場した細川という男。
その関係者で、後に、物語の主要人物となる須野明男という天才建築家。
物語中盤頃に、やっと、軸となるだろうこの二人が際立った存在感で描かれ始め、しかし、話は、第二次世界大戦へと。
やってくる、辛い描写の戦争末期と、戦後。
たとえば、満州からの引き上げの狂気と混乱。

その後。

引き上げ船の中で語られる、ささやかな未来への希望が描かれて、続く、戦後から10年目の1955年春。
一時、拳のない世界で、過去の地図の存在が作り出す、未来と希望が描かれてエンディング。

読者は、満州を舞台に、多くの暴力の話を眺めてきたというのに、最後は、溢れるような多幸感。
なあんか、あっぱれなエンディングだなぁと思いつつ、長い物語をかみしめました。

余談ですが…。

本作が、世に出た直後と、直木賞を受賞したことをきっかけに、いろんなメディアで作家のインタビューがなされた記憶。
そのいちいちを面白く聞いたり見たりしたのが、本作を手に取ったきっけです。

きっかけではありますが、あの時の、聞き手は、この本を読んで取材に挑んだんだよね?
…と、いまさら驚きとともに思い返えしたり(*’▽’)。

読み切らすにインタビューしたの?…まさか。
それとも、速読?

いやまったくの余談で恐縮ですが、しかし、それほどまでに、読んでも読んでも終わらない物語だったもので。
しかし、こんな重厚な物語って今や稀有。

それをちゃんと読了出来て良かったなぁ。
良い、読書機会をありがとう!

そんな思いもあるので、ついついの余談です(*’▽’)。

↓読了するなり、もう一度読みたいと思う。ただしたっぷり時間があるときにね。

小川哲作『地図と拳』集英社