遠出をするなら、電車の友に本は必須アイテム。
東北の街への行き帰り、その電車の友は、おおむねミステリーときめていて、行きはそのとおりミステリー。
帰りは、読む本がなくなったんで駅ビルにて物色。
『ヤッさん』というチカラ強いタイトルとともに、帯に「読んだ人の80%が電車を乗り過ごしてしまう面白さ!!」とあるのに惹かれてこの本、『ヤッさん』 原 宏一 著(双葉文庫)を選ぶ。
もちろん、新幹線で降りる駅は乗り過ごさなかったけど、それがまあ、なんだかやたら痛快な物語で、かなり夢中に。
降りた上野の駅からまっすぐ我が家に帰ればいいところ、なぜか、荷物ともども駅中のカフェに入り、さらに読書をつづけた次第です。
物語の主人公ヤッさんは、銀座を根城にするホームレス。
しかし、「都会の恩恵を受けることに感謝しても媚はしない、という独自のホームレス哲学を胸に、気高い自由人として生きている」。
そのヤッさんには、タカオという名の若き弟子がひとり。
彼は、18歳で東北の街から東京の大学に進学⇒IT企業に就職するもうまく馴染めず、あれよあれよと転落の道にはまってホームレス青年になってしまった、いまどきマジでよくありそうな現実味のあるプロフィールの若者。
ヤッさんとタカオは、ホームレスの身でありつつも、いつも身なりをこざっぱりと整えて、日々の体調管理にも余念なく、パッと見は、ホームレスのステロタイプにはまらない。
彼らは、そうして、築地の仲買人と都内の料理人の情報仲介役…今日、築地にはどんな魚介が水揚げされたかなどと言う超旬な情報を、厨房からなかなか外に出ることができないほどに忙しい都内の名店料理人たちに。その料理人たちが、今欲している食材の情報をまた築地の仲買人たちへといった具合。…を務め、代わりに、築地の旨い魚やレストランのまかないなどを毎日三食、時に四食五食とありつきつつ生きている。
うーむ。
これって、家がないってだけの、そしてお金を稼がないってだけのプロフェッショナルの話じゃあないかっ!
そんな彼らが、食の世界でまきおこる事件を、都内を東奔西走。ときどき、日本列島を西へ東へとフットワーク軽く移動して痛快解決!
いやぁ、面白かったぁ!
…と、気づけば、新幹線に乗っていた時間とほぼ同じ時間をそこで過ごしたことに(笑)。
日が高いうちに家につこうとやや早めに出てきたものが、外はすっかり日が暮れている…。
ああ、これって乗り過ごしたのと同じですかね。
ってことで、違った視点にて、もう一回レビューしてみました。⇒小説のチカラみたいなものを感じる、小説『ヤッさん』