昔、人々は、1年を大きくふたつにわけて考えていました。
1年の最終日、12月31日=「大晦日」→翌日からの新しい年を迎えるにあたって重要な日。
まあ、これはいまも同じですね。
6月30日=「六月晦日」→1年前半の平穏をカミサマに感謝し、のちの半年の無事を祈る物忌みの日。
そして祓いの日と位置づけていたのです。
こちらは、神社などの行事として、今に伝わっています。
ということで、新暦ではありますが、6月30日は、多くの神社にて、祓いの神事「夏越の祓い」が執り行われます。
谷中・千駄木・根津界隈の夏越の祓い
我がご近所にも、数日前から拝殿前には、大きな茅の輪のしつらえが。
こちらは根津神社の茅の輪
駒込の天祖神社にも同じく立派な茅の輪があります。
「夏越の祓い」は、この「茅の輪」を作法にのっとりくぐる「茅の輪くぐり」と、「形代」という紙でつくった人形にヒトの穢れを移し水に流すというふたつで執り行われるのが一般的です。
まずは半年の穢れを落としカミサマに感謝するために「茅の輪くぐり」を
神事が執り行われる時間に赴き、神職の方々の後についてくぐるのも趣き深い良き体験ですが、茅の輪がしつらえてあるならいつでも「茅の輪くぐり」は可能です。
まずは、茅の輪の中に左足から入って左回り。
次に右足から入って右回りと茅の輪をくぐりながら八の字を書きます。
そして、もう一度くぐって拝殿に向かう。
こうすることで、厄災を祓い、夏に流行する伝染病や水難を防ぐことができると考えられてきました。
そして、くぐりながら「水無月の夏越祓いする人は千歳(ちとせ)の命(いのち)、延(の)ぶと言うなり」という歌を三度唱えると、さらにご利益があるらしい。
つまり、「千歳の命、延ぶ」=千年も寿命が千年にも延びるのだそうです。
なんともこの日だけの、カミサマの大盤振る舞であることでしょうか。
ぜひともこのありがたい歌を覚えて出かけましょう。
そして、くぐり終えたら、拝殿に向かってカミサマにお参りするのをお忘れなく。
「形代流し」は、上巳の節句などと作法が似ています。
「形代流し」のほうは、和紙で作ったヒトカタの人形に息を吹きかけ、その人形でカラダをさすり、そうしてわが身の穢れを託したものを神社に納めお祓いをしていただきます。
かつては、ほんとうに川などに流していたのだそうですが、都会の夏越の祓いはどんな風になっているのでしょうか?
上の写真は、新橋烏丸神社のヒトカタを飾りにデザインしたモノ。
ホンモノはこっちです。
ついでに、烏丸神社の茅の輪も。
さすが、サラリーマンの街です。
茅の輪をくぐった参道には、飲み屋が並んでおります。
ちなみに、夏越の祓いを執り行う神社の拝殿前には、同じように「茅の輪」が配され、ヒトカタもおいてあります。
そして、そのヒトカタの意匠が、神社によって微妙に違う。
素材も普通の上質紙や和紙だったり、女性用はピンクで男性用は白と色分けされていたり..。
それに気がつき、ついつい各種コレクションしてみたいなどと罰当たりなことを思ってしまいました(笑)。
そんなやからは、祓うべき穢れが多すぎて川をも汚す…と、カミサマに大いにあきれられるかもしれません…(反省)。
夏越の祓いの歴史は古く、飛鳥時代まで遡ります。
『日本年中行事辞典 (角川小辞典 16)』(角川書店)によれば、当時、祓いの神事は必要に応じて多数あり、そんな中でも6月晦日の「名越の祓い」と大晦日の「年越しの祓い」を合わせて「大祓」と呼ばれ特別な位置づけにあったそうです。
その日は、天皇・皇后・親王のほか、多くの官僚たちも集まって、「百官万民の犯した罪や触穢を除き去るために」祓えを行う。
それが、701年の大宝律令によって正式な宮中の年中行事に定められ、少なくともその後の平安時代を通しては盛大に行われつづけます。
しかし、室町時代の応仁の乱のあたりからいったん廃れ、江戸時代は元禄の頃に再開されましたが、大掛かりに復興したのは、なんと明治に入ってからなのだそうです。
大祓いの復興に際しては、明治政府から天下一般に行うように布告までがなされたそうで、古式ゆかしい神事が現代でも意外と盛んに行われるのは、こうした経緯があるからかもしれませんね。
私がくぐらせていただいた茅の輪コレクション
…って、またコレクションとかいってるあたりで、八百万のカミサマが苦笑なされそうですが、現代の都会で、茅を大量に手配し、2~3メートルはある茅の輪を整えるのは容易なことではありません。
なのに、それもさまざまに意匠が工夫もされて、どれもが美しいカタチであることがとても嬉しく。
やっぱり、そこをくるくる8の字に3回まわってお参りしたくなるものです。
富士塚で有名な、下谷・小野照先神社も茅の輪は素朴な感じがステキだし…。
日枝神社のモノは、逆にすっきり洗練されたイメージ。
浅草浅間神社は、アットホームなこじんまり感が好きです。
そして、夏越の祓の神事も、茅の輪も立派なのが、鎌倉鶴岡八幡宮。
ああ、ずいぶんくぐらせていただきありがとうございます。
祓いたい穢れも、願うことも今と昔ではずいぶん違った中身でしょうが、作法にのっとりお祓いを受ければなんとなくすっきりもする。
ちなみに、「ナゴシ」という名称は、神様の気持ちを和らげるという意味の「和し」からきているとも言われているそうで、この行事はカミサマすらも和ませるわけです。
もちろん、すべては、「気はこころ」。
しかし、その「気」と「こころ」こそが、私たちの生活には、とても大切なのだということを、こうした年中行事は時々教えてくれているような気がします。
◆今日は、2014年6月30日/旧暦6月4日/水無月壬申の日