並んだ提灯にも朝顔の模様。
7月6日から始まった東京・台東区入谷の「朝顔市」も、今日が今年の最終日となりました。
場所は、狂歌師太田蜀山人が言ったとされる「恐れ入りやの鬼子母神」で知られる「真源寺境内」とその門前の「言問い通り」。
そのかなり大きな通りの一角をいっとき通行止めにする時間すらあって、東京下町では、今日も盛大な「朝顔市」が開かれています。
朝顔市の公式サイトによれば、朝顔の露店が120軒、さらに縁日に定番の露店あれこれが100軒。
そして、人出は、なんと3日間で延べ40万人なんだとか!
しかも、朝顔は早朝に咲くものだから、市も早朝5時ぐらいから始まって、ならばと早起きをして出かければ、すでに露店の前は、売り手の掛け声と朝顔を求める人の渦。
朝というより、そこだけもう昼日中の熱気を孕んでいます。
初めて足を運んだときは、そんな早朝に大勢の人というのが驚きで、「度肝を抜かれる」ってつまりこうゆうことかしら…と思ったほどです。
これだけ和風&風流な印象の朝顔ですが、日本原産の植物ではありません。
朝顔は、奈良時代に遣唐使が大陸から持ち帰ったのがその伝来の最初という説が有力とされます。
しかも、当初は「牽牛子(けにごし)」と呼ばれる薬として栽培されて、花も地味なものをつけるのみで観賞用である気配は微塵もなかったようです。
それが、時々、英名の「Morning Glory」に、「日本の」とつけて「Japanese Morning Glory」とまで呼ばれるようになったのはやはり、江戸時代の園芸ブームによるところが大きい。
実際、朝顔を観賞にたえる花に改良をしようとしたのは、日本人だけなんだそうです。
入谷の朝顔が有名になったのは江戸末期の文化・文政の頃。
間接的な要因は、文化3年(1806年)の大火。
今の下谷のあたりが広大な空き地となって、そこを利用する形で植木職人たちがいろいろ珍しい朝顔を植え、咲かせました。
当時の朝顔は、今のようなシンプルなラッパ形ではなくて、変化咲き朝顔が主流。
桜にしても梅にしても、躑躅なんかもそうですが、とかくなんでも工夫を凝らすのが好きな江戸の植木職人たち。
朝顔も例外ではなく、花の変わり咲きに血道をあげたようです。
今に残されている浮世絵、肉筆画の類を見ても、牡丹のような八重咲きの朝顔や菊のように細い花びらがたくさんついたもの、花びらを縦に二重に重ねたようなものなどいろいろで、その変化咲き朝顔の怪しい美しさが江戸人たちの間に朝顔ブームを巻き起こします。
そして、幕臣ほか裕福な人々は、珍しい園芸趣味として朝顔を愛で育る。
下谷に程近い御徒町界隈に住む下級武士立ちの間では生活の糧としてさかんに朝顔を栽培。
そんな気運でもって、朝顔ブームは、路地裏に住む土地も持たない庶民にも広がっていったのです。
時は幕末。入谷界隈は、「朝顔屋敷」がたちならぶ地帯に
幕末近くになって、朝顔栽培の中心は、本格的に現在の入谷のあたりに移ります。
「朝顔屋敷」と呼ばれるものも立ち並び、それらは、朝顔を販売するためのショウルームでもあり、なんと、木戸銭を取るところまでも出現!
しかしお金をとっても、客が大勢入るほどの人気となってそのまま明治を迎えます。
そうして、しばらく朝顔といえば入谷という時期が続きますが、妖しく美しい変り咲きの朝顔でも、きな臭い時代の流れに抗えません。
大正時代に入ってすぐに最後の植木職人が廃業をきめ、朝顔ブームはもちろん朝顔職人たちも入谷の町から消え、忘れられてゆきました。
現代の朝顔市は、戦後すぐの昭和23年に入谷に復活させたものです。
いまある真源寺の門前市としての歴史は、昭和にはいってからのもので、実はそう歴史は古くありません。
しかし、丸くしたてた竹に朝顔の蔓を這わせて大輪の花を咲かせるその様子は、変わり咲きこそありませんが、私たちが思う江戸の夏の風物詩そのもの。
市にならぶ朝顔たちは、朝一番に水をたっぷりもらったせいなのか、涼感に溢れ、美しく。
早朝に出かけ、朝顔市のあたりをそぞろ歩き、鬼子母神さまにもお参りなどもして、ああ、暑い夏も、なかなかにいいものだなぁと思わせる独特の趣きがあります。
私の目当ては、つまみ朝顔と福禄寿さん
といっても、別に毎年朝顔を買うわけでもない冷やかし客のわたくし。
例年、熱気を楽しみつつ市を抜け、入谷鬼子母神こと真源寺境内へ。
七福神のおひとり福禄寿さんにお参りしつつ、その容貌をしげしげと眺め…。
境内の片隅に並ぶつまみ朝顔を物色する。
「つまみ朝顔」ってなに?
「つるが伸びないように先をつまんでいるから」とか「種をまいて育つ途中でまびかれたのを育てた」とか、まことしやかに聞きますが、実はよくわかりません。
昨年も、一昨年も、解らないなりに、買って、植えて、すぐに何輪か花咲きました。
しかし、自宅には、毎日花咲かせる朝顔がもうすでに…。
ってことで、今年は、もう完全に見るだけです。
戦によって、朝顔ブームが幕を閉じ、戦が終わって再度開かれた朝顔市。
朝顔には、暢気な朝が、そこはかとなく似合う。
今年も、とりあえず平和な夏の始まりでもあります。
◆今日は、2014年7月8日/旧暦6月12日/水無月庚辰の日
↓朝顔の由来は、こちらの本を参考にしました。他にも江戸の品種改良の様子など面白すぎる本。
状態の良い中古本が安く入手できます