ふと気づけば、ずいぶん日の入りが早くなってしまいました。
外出して帰路、路地に分け入り寄り道などし、ちょっと油断をすると、街灯も少ない住宅地あたりでとっぷり暮れてしまいます。
家々の明かりだけのほの暗い道をとぼとぼと歩いていると、漂ってくるのはかぐわしい香り。
ふと見上げ、薄暗い茂みに目を凝らすと、ぼんやりオレンジ色の星の花が浮かんいました。
ああ、もう、金木犀が咲き始めたようです。
実はこの花、家々の立て込んだ街中では、香りを感じ、こんなふうにすぐに花咲く場所が確認できるのはきわめて稀で、たいがいこの匂いはどこから漂ってくるのかと探す羽目になったりもします。
寄り道はさらに深みにはまって、路地を曲がり、公園を一周、香りは強くなったり弱くなったりを繰り返し、やっと見つけた小さなオレンジの花をまとった巨木。
ええっ!こんな遠くから香りを放っていたのかしら?
と驚かされるのです。
そして、こんな風に、一度、この花の香りに気づけば、不思議なことに金木犀はあちらでもこちらでも香りだす。
…ような気がします。
それは、誰かに見つけられたのを合図に、香りのスイッチが押されたかのように唐突で一斉。
あとは、花が散るまでずっとあの、やや尖ったような甘い香りを放ち続け、秋の澄んだ空気をうっすらオレンジに染めているようにすら見えてきます。
金木犀は、中国南部の原産、江戸時代に日本に渡来したのだそうです。
大陸では「桂花」と呼ばれ、花を白ワインに漬けたのが、あの甘い「桂花陳酒」、そしてお茶に混ぜたのが「桂花茶」です。
香りだけでもたいした存在感ですが、それ以外にもずいぶん役に立つ花なんですね。
さて、春先の水仙から始まり、初夏のくちなしでいったん休憩していたかのような香り花のリレーは、夏をまたいで、金木犀、そして少し遅れて銀木犀で終了です。
近くで見れば、誰かが、フェルトを切り抜いて作ったような花。
それが、こんなにかぐわしい香りを放つなんて不思議な気もしますね。
そして、金・銀木犀の花は案外こらえ性がない。
少し強めの雨風があるとあっけなく散ってゆきます。
まだ咲はじめですが、しばらくたったら、地面をこんな風に染めもする。
もしも、強い風が吹けば、翌日、アスファルトをオレンジで染めもするでしょう。
しかし、そんなふうにしてなお香っている。
この花は、咲いた花をめでさせるより、香りを楽しませることを自らの役割としているかのようです。
花が散ると、もう晩秋。
この花の香をかぐと、冬の風の音が聴こえてくるような気がしますが、今日は、9月の最終日。
今年の金木犀が香るのは、ちょっと早かったような気がしますが、とすると花の時期が案外長いのかな?
◆今日は、2014年9月30日/旧暦9月7日/長月甲辰の日
◆日の出 5時35分 日の入17時27分/月の出 10時59分 月の入21時28分