12月3日は、永井荷風の誕生日。
となれば、やはり、荷風の著作を1冊もって、超個人的、東・東京観光の日です。
今日は特に急ぎの用もないので『墨東綺譚』を持って、その物語の舞台となった向島あたりへ。
今や、スカイツリーが見守るこの界隈を、荷風によって「墨東」と名付けられた戦前の光景を想像しながら、うろついてみるのです。
好きな作家の誕生日には、その著作を1冊読んでお祝いをする。
というのは、私のささやかな習慣…いやこだわりかな?
といっても、好きな作家はけっこう多く、全員に対してそれをやっていると365日埋まってしまう。
ってコトで、思春期に読んで好きになった作家限定。
幼いころから、文学ばっかり少女であった私ですが、オトナになって思うのは「それってものすごい幸運なことだった!」…と。
思春期の私に、面白い物語を与えてくれた感謝の意味もあるのであります。
『墨東綺譚』は、ラブストーリーだ!
というコトで、『墨東綺譚』は、通っていた女子高校の図書館で見つけて読んだのが最初。
最初の興味は、この物語の本質をはるかにはずし、地名や場所への興味だったりした。
たとえば…。
浅草の辺りから円タクに乗り川向こうに。
あるいは徒歩で吉原遊郭に向かう山谷掘りをめざして、途中で進路を変えて隅田川を渡る。
…田舎の少女は、なんだか、そんな描写が非常に「東京」な感じで憧れてしまったってコトです。
だから、今でも、『墨東綺譚』の面白さは、その土地を、荷風の散策作法に習って路地や裏道をあるくことに紐づいている。
しかし、こうしてオトナになって再読し、あららっ!これって、荷風のラブストーリー?
と気が付いた。
『墨東綺譚』のストーリーをかいつまむと…。
舞台となった玉の井は、遊女たちが暮らし、生計を立てる街=私娼窟。
その場所に足げく通う小説家・大江匡は、荷風の分身として描かれたキャラクターだともいわれ、物語は、大江と娼婦・お雪との出会いと別れが描かれている。
つまり、街の描写や、当時の暮らしの様子は、物語の背景(…ってそれも重要なんですが)、けっこうな年になるまで、その部分に全然気が回らなかったのが、ちょっとおかしい。
「おいおい、私は、ガイドブックや地図を書いたんじゃあないからね」と、荷風にお叱りを受けそうです。
でもね。それほど、街の描写が瑞々しくて、平成の世になったというのに、そこ痕跡を見つけに出かけてみたくなるんですよ!
というコトで…。
今日の東・東京観光に持参するのは、『墨東綺譚』に加えてもう一冊『日和下駄』を。
移動の電車の中とか、ランチや休憩に入ったカフェで『墨東綺譚』と交互に『日和下駄』の好きな章を読んでみる。
荷風の描いた東京のちょっとひねりの利いた裏通りのアレコレ。
『日和下駄』は、エリアを広げて、当時の東京じゅうを散策して歩くといった感じがステキなんです。
なので、その場所を逐一ノートに書きだして、これから来年の今日まで、そのあたりもめぐってみようかなぁと。
…って、発作的に今朝思ったんですが(笑)。
今日は、浅草から橋を渡り延々歩いて向島へ。
このブログに載せる植物の写真を撮るために通う、いつもの向島百花園。
そのあたり、墨田区の東向島界隈が『墨東綺譚』の舞台となった玉ノ井と呼ばれた場所。
今日は、その百花園がゴール。
(いつもは正門の写真なのですが、百花園に沿った道側からの光景もいい感じなので、今日はこちらを。)
ああ、ちょっと長い散策になりそうです。
永井荷風おじさま!
今日はお誕生日おめでとうございます。
素敵な作品をありがとう。
高校生の時に出会って、再読するたび、いろんな発見をしつつ、こんなに長く、面白がっております。
そして、どうぞ、今年の今日を散策日和にしてくださいね。
◆今日は、2015年12月3日/旧暦10月22日/神無月癸丑の日/下弦の月
◆日の出6時33分 日の入16時28分/月の出23時40分 月の入11時50分