七十二候は「閉塞成冬」。もう字面のイメージからして寒そう。というコトで、ちょうど「事八日」の今日は江戸人に習ってお事汁をいただきます/12/8=旧10/27・戊午

季節の暦七十二候は、昨日の二十四節気「大雪」にともなって、「閉塞成冬」に入りました(12月7日~12月11日)。

読みは「そらさむくふゆとなる」で、閉塞感の「閉塞」の文字に空が寒いの意味を込めている。

暗くて重い冬の雲がどっしりと空を覆っているイメージで、スコーンと抜けた冬晴れはまったく期待できない暦のコトバ。

いやあ、寒々しいですなぁ。

それなら「お事汁」で温まりますか!
折よく今日は「事八日」でした。

江戸人たちにとって、12月8日は「御事始(おことはじめ)」あるいは「正月事始」と言って、新しい年を迎えるスタートの日。
今日から、年神様がいらっしゃる日々に十分にもてなせるように準備が始まる日って位置づけだったみたいです。

で、今日は、そのスタートの印として「お事汁」を作っていただいた。

このブログを書くにあたっての参考書のひとつ絵本江戸風俗往来(菊池貴一郎 東洋文庫)の記述を参考に、今年も作ってみようかと思います。

お事汁は、言ってみれば、具だくさんのお味噌汁。
そして具となるのは、<汁の実には、里芋、牛蒡、大根、人参、焼き豆腐、蒟蒻、赤豆を用いたり>というコトで、用意しました。

材料

赤豆は、昨年とおなじく金時豆の水煮缶で代用。

『絵本江戸風俗往来 』にはありませんが、最後の彩りの芹もぬかりなくセットしました。

芹

彩りだし季節がら青ネギでもいいんですが、「この行事は旧暦行事だから芹では?」と思いついた昨年どおりにやってみた。
いや、それが、ネギより美味いっ!と思ったからなんですが(笑)。

まあ、今で言うけんちん汁みたいなもんですね。
現代なら豆腐や赤豆の代わりに豚肉などを入れてとん汁とか。

まあ、そんな作り方を踏襲して作ります。

材料を切り。
材料を切る

一応、人参と大根をいちょう切り、サトイモは大振りに切って、少しだけご馳走風にしたつもり。
まだお正月じゃないので、この「少しだけ」もこだわりです。

出汁は、味噌汁なんで、昆布と鰹節でとりました。
ゴボウを粗目のささがきにして、そこからも出汁が出ることを期待します。

さあ、出来上がりっ!

おコト汁

やっぱ、これは寒い時期に嬉しい汁ものそのものです。
しかし、江戸人にしてみれば、冬場の野菜類は貯蔵品で、畑からじかに収穫するってのも少なかったのでは?
と思うと、これって、たいそうなご馳走だったんじゃないでしょうかね。

ちなみに、この日、お事汁を、食せば魔よけになるとも信じられていたそうです。
この時期の、魔除けの「魔」は、冬の寒さが引き起こす病とかかな?
たしかに、滋味あふれて、寒い日々も乗り越えられそうな気がします。

「事八日」は、12月「始まり」と「終わり」説が二つ存在?

実は、「お事始」があれば、「お事納」という終わりの日もあるのは当然。この両日をまとめて「事八日」といったみたいです。
そして、この「事八日」、江戸の昔は、始まりと終わりが逆転する、二つの説が、あったみたい。

・正月を軸にすれば…。

12月8日は「お事始」あるいは「正月事始」と新しい年を迎えるスタートの日。
⇒今日から年神様を迎え、もてなす準備が始まる。
…が先にご紹介した行事。
そして、2月8日は正月が終わるということで「お事納(おことおさめ)」。

・農事を軸にすれば…。

今度は真逆で、12月8日が今年の農事のすべてを終える「お事納」
2月8日は、春に向かって田畑仕事の準備をはじめる「お事始」
⇒「お事始」は春の到来とともに農事のカミサマがやってくるので、そのお迎えの祭と位置づける地域もあったそうです。

おそらく、前者は都市部の行事。
後者は農村の行事ってことだったのかな?

行事の作法はほぼ同じ。

1.具沢山の味噌汁=「お事汁(ことじる)」を作って食す。
2.笊籠を棒の先に括りつけ高く飾る

って、ここで、依然に気になるのは2番で掲げたものなんですが…。

江戸人たちは、「事八日」の日に、なぜかざるを天に掲げた?!

彼らは、実際、空に向かってなんでも掲げたがったよね。

・五月の節句→鯉とか、錘馗様の幟(のぼり)やら、吹流しやら。
・七夕→短冊や色紙細工をずっしりぶら下げた笹の葉さらさら♪♪。
・盂蘭盆会→燈籠を竹竿の先にぶら下げて高々と飾って、夜空に灯りをともそうとした?

その他、お祭りごとの幟、正月の凧…etc。
現代のように空をふさぐものがなかったのもあるんでしょうね。春夏秋冬、江戸市中の甍の波上は、いつも何かとにぎやかだったみたい。

でも、その中でも、もっとも奇妙で、興味深いのが、「事八日」に掲げたもの。
なにせ、これです。

ざる

こんな笊やら籠やらを、長い竹に括りつけて天高く掲げたっていうから驚きです。

『絵本江戸風俗往来 』(菊池貴一郎 東洋文庫)には、挿絵もあるんでそれもご覧になってください。
笊を掲げる

なんか楽しそうだなぁ…。

実は、笊籠を掲げるのも、「お事汁」と同じく魔除けのためなんだとか。
しかも、笊を掲げて祓う魔物の素性がはっきりしていて、この日「箕借り婆(みかりばば)」という一つ目の妖怪や「一つ目小僧」がやってきて、人間の目を勝手に借りていってしまう…らしい。

一つ目の魔物たちは、目(=網目)がたくさんあるものが大嫌いで怖い
だから、笊籠を目立つように掲げておけば、物の怪たちは寄ってこないという理屈なんだそうです。

とにかく、始まりか終わりかは臨機応変。

江戸人たちは、12月と2月の8日を総称して「事八日」と呼んで、笊を掲げて、お事汁をいただいた。
その意味を紐解くと、全部魔除けだし、笊籠がよけるのは、なんだかちょっと愉快な一つ目の妖怪だったりするし…ではありますが(笑)。

とにかく、冬を挟んで、始まりと終わりのけじめをつける日として重要に扱ったということでしょうね。
それほど、冬の寒さは、人びとにとってのストレスだったのかもしれません。

…平成の私にとっても寒さは早く去ってほしいもののひとつですからね。

◆今日は、2015年12月8日/旧暦10月27日/神無月戊午の日
◆日の出6時37分 日の入16時28分/月の出3時15分 月の入14時31分