伊能忠敬の学ぶべき人生を讃え、今日は地図の日をお祝いしたく/旧3/20・庚申

時は、江戸時代後期、寛政12年(1800年)閏4月19日。
伊能忠敬は、蝦夷地の測量を行うためにこの日、江戸を旅たちました。

その輝かしい事実に由来し、今日は、地図の日なんだそうです。

伊能忠敬MAP

伊能忠敬はもともとは商人でした。

伊能という苗字を許され、肖像、銅像ともに刀をさした姿で描かれるので、けっこう知られていませんが、彼はもともと商人の出でした。

傾きかけた商家に婿養子に入り、それを立て直すほどの才覚をもち、また村名主としても村民から尊敬を集める人格者でもあったそうです。

天明の大飢饉に追い討ちをかけたとされる浅間山の噴火の際は、私財を投じて米を買い飢える村民を救う。
名主として勤めていた村は、利根川沿いにあり、川はたびたび氾濫しましたが、そのたび堤防の修復に努める。

史実をたどってゆくと、尊敬されて当然、あまりあるなぁ…という記述にあたります。

しかし、堤防の工事に必要な知識だったことから、彼は、人生のギフトを得るように測量や地図に興味ちます。

このとき忠敬はまだ30代後半。
測量の旅にはまだ間がありました。

家の商売に励み、地域のために働きながら、江戸から入ってくる新しい情報…特に西洋の学問にアンテナを向け続け、やっと50歳で家督を息子にゆずり隠居するのでした。

後世のものが知る伊能忠敬の人生の本番は、隠居後から

隠居したのちの忠敬は、ゆっくり休む間もなく学問を修めに江戸へのぼり、幕府天文方の高橋至時の弟子となります。

自分の息子といっても差し支えないほど年下の師匠を深く尊敬しつつ、測量・天文観測などを青年のような好奇心で学び、商人として得てきた財産は、そのために使ったそうです。

そうして、家の商売や地域のために働いてきた熱心さでもって、朝も晩もなく学問にあけくれる日々が続きます。

「経度や緯度の1度はどれくらいの距離なのか」

そうして送る、太陽の高度を測り、星の運行を実測する日々。
忠敬は素朴な疑問を抱きます。
その緯度経度の1度を知れば、地球の大きさがつかめるはずだという発想。

商人であった伊能忠敬ですが、これはもう科学者の思考方法であり、熱意ですね。

そして、それを実測した人はまだ誰一人としていなかったと知れば、それをやってみたくなる。

家並みが続く江戸では所詮無理なはなしだろうが、広い蝦夷なら可能ではないか。
幕府天文方という役人でもあった、師匠・高橋至時の交渉もあって、忠敬の計画は幕府によって許可されます。

そして、寛政12年閏4月19日、蝦夷地へ向かう旅がはじまりました。
このとき伊能忠敬は、56歳。
人生50年の時代にそれをはるかに過ぎていました。

それは180日に及ぶ測量の旅

測量の一行は、まず奥州街道を、1日に何十キロも歩きながら北上し、夜は、方向を見失わないために天体観測を欠かさない。そんな旅が何日も続きます。

この様子は、冲方丁の小説『天地明察』にもいきいきと描かれていますので、ちょっとおススメ。

さらに、その生き方は、『江戸の定年後』(中江克己 光文社)という本にも描かれていて、測量の旅の詳細もそこにありました。
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ちょっと引用してみましょう。

「一ヶ月ほどのちの5月22日、箱館(現・函館)に到着。その後、室蘭、襟裳岬、厚岸と海岸線を進み、8月7日には根室の西方、西別(別海町)に着いた。各地で測量した後、9月11日に箱館に戻り、10月21日には江戸へ帰ってきた。180日にも及ぶ測量の旅である」

約半年の長い旅です。

その長さを、忠敬は自分の歩幅を物差しにして、すべて「歩測」で測ってゆくというのがすごいところ。

シンプルだけど、コツコツと根気がいる旅。
それを、彼は、好奇心というチカラで一歩一歩前へ前へと続けていったのです。

さて、この測量の旅。

実は、以降、第10回目まで続き、『大日本沿海輿地全図』、通称「伊能図」にまとめられました。

上の写真は、上野の国立博物館所蔵のそれの一部、関東あたりの「伊能図」です。

この「伊能図」以前に日本で作成されてきた地図と較べ、飛躍的に進歩した地図でした。
だって、現在の関東あたりの地図ともうほとんど変わらないカタチではありませんか!

この地図は、当時の西洋の地図にもほぼ遜色のない水準とされ、のちに近代日本の行政地図に多大な貢献を果たしてゆきます。

ちなみに、忠敬の最初の好奇心であった「子午線1度の長さ」はどうだったのか。
それは、28.2里(約110.74km)と算出され、こちらも、現代の計測値と較べても非常に誤差が少ないのだそうです。

輝かしき第二の人生。

すべての偉大な功績はそうなのだけれど、「歩く」という行為を偉業に繋げた伊能忠敬の仕事は、尚、特別な気がします。
「最初のたった一歩がなければ始まらず、歩き続ける根気がなければ結実しない」
…つまりそうゆうこと、そのまんまなのですから。

伊能忠敬の日本全図は、もちろん、現在の地図の正確さには及びも着きません。

しかし、その美しさはどんな地図にも勝ったものに見え、いくつになっても行きたい方向へ踏み出すために、もっとも正しくチカラある「人生の地図」に思えてくるのです。

もう、彼の生き方は、現代人にも学ぶこと満載。
遠い過去に尊敬のまなざしを向けながら、今日の地図の日をココロで祝いたいと思います。

◆今日は、2014年4月19日/旧暦3月20日/弥生庚申の日