牧野富太郎博士の誕生日は、植物学の日になりました/旧3/25・乙丑

今日は、植物学の日だそうです。

高校生の頃、生徒に人気の生物教師が熱烈に薦めた「牧野日本植物図鑑」。
学生用に簡易に編集された「学生版」を早速買って、時々眺め、同じ植物を道端でせっせと探しました。

季節ごとに自然に出てきて花を咲かせ、
散って、
枯れて
…の植物たちも、ひとたびその名前と生態を知ったら、非常に身近な友達のように感じる不思議。
この植物図鑑は、それほどの威力を持っていました。

その植物図鑑を作った方こそが、牧野富太郎という名の優しそうなおじさま。
そういうふうに慕わしく記憶しました。
そして、その牧野富太郎博士が、植物学の世界的権威と知ったのは、よくよく年を重ねてからのことでした。

4月24日は、その牧野富太郎おじさまの誕生日。
それにちなんで植物学の日となりました。

牧野富太郎は、江戸から昭和まで、植物とともに生きたヒト

牧野氏は、明治維新がもう目と鼻の先ぐらいまで迫った1862年(文久2)年に、土佐で生まれました。
江戸、明治、大正、昭和と、幼い頃から身の回りの植物への興味と共に生きて、植物学の世界に驚異的な成果を残して94歳で逝きます。

誕生の地である高知には、高知県立牧野植物園という立派な記念施設があって有名ですが、

201104牧野庭園5

東京練馬区の大泉学園駅から程近くにも晩年暮らした場所があって、現在「牧野記念庭園」として一般に開放されています。

植物学の日に近い晴れた日に、記念庭園を訪ねてみましょう。

そこは植物のためにあるような、柔らかなヒカリに満ちた場所です。

牧野庭園2

庭園には、約300種類の草木類が植えられています。

・私がいちばん好きなのは、「見本園」という場所。
標本栽培に使ったのでしょうか、今も様々な草が植えられ、そのひとつひとつに丁寧に名前の札が施されています。

201104牧野庭園2

・その奥には、昔、小さな温室がありました。

200712牧野庭園2

中はこじんまりした小さなスペースでしたが...

200712牧野庭園

ガラスの天井を通して桜の木が見え、満開の頃はもちろん、夏には新緑、秋に紅葉と、温室の天井が四季折々桜で彩られてゆくのを、訪れるたび見上げて楽しんだものです。

しかし、数年前にリニューアルの手が入り、今は取り壊されてしまったのが残念です。

・庭園へ足を向けましょう。

201104牧野庭園1
ここも庭全部が生きる植物図鑑のように、ひとつひとつに名前が振られて、雑草1本までもいとおしくなる場所です。

・住まいを改装した建物は展示室。

そこには、博士ゆかりの品々、植物採集や研究のための道具や執筆原稿に加え、愛用の日用品が静かに飾られています。
特に、部屋の壁にぐるりと飾られた、植物標本はことのほか美しく、仔細に眺め立ち去りがたくなります。

植物の宇宙から、少し材料をいただいて…。

201104牧野庭園3

牧野博士によって描かれた、標本という名の美しいアートです。

201104牧野庭園4

標本が作られたのは明治30年代から昭和の初期ぐらいまで。
中には、100年も経過したものもあり、それがまだ美しい植物の姿をとどめています。
なんだか、牧野博士は、カミサマのアートをここにとどめることを許されたひとりなのだと思えてきます。

・庭園内には、94歳で逝くその日まで居た書斎もありました。

201104牧野庭園7

今でこそすっきりしていますが…。

先の展示室にで見たモノクロの写真の記憶によって、今はがらんと空いたその書斎に、畳の面が見えないほどの文献や資料やを想像の中で置いてみます。
ああ、やっと牧野博士在りし日の書斎となって、想像の中には、資料に囲まれ研究中の博士まで現れて穏やかで幸せそうに笑っています。

・牧野富太郎という生き方

牧野富太郎氏は、小学校も満足に卒業せずに、しかし脅威的な努力をし、東大では万年講師でしかなかったけれど、世界的偉業をなしとげた…と一般的に言われています。

しかし、ここを訪れてみたあと、それはちょっと違うのではないかなと思えてきました。

それは、高学歴とかお金持ちとかの「常識的な立身出世」が「正しい」ことという側から見た言い方でしかない。

早くに親をなくし兄弟もいないという不幸の一方で、牧野博士には、幼い頃に好きなこと見つけることができたという幸運があって、それからずーっと淡々と好きなことを追って生きたひと。

植物が芽を出し、成長し、花開かせ、実を結ぶ。
それに比べれば、人間の思惑など小さい小さい、といわんばかりに、淡々と「自然の営み」に寄り添う喜びを知ったひとだったのです。

植物の世界は、懐深く、裾野が広く、そしてしぶとい。

その世界を観察しつづけ、牧野博士は「自分は木々の妖精だ」と本気で思うようになってゆきます。
その権威や研究成果は、あとでついてきたものでしかなくて、そこに、ひとりの人間の幸せな生き方を思わずにはいられません。

博士は、今、私のご近所、谷中の墓地の片隅に眠っています。
時々そこを訪ねれば、菊などの仏花にまじって、時々季節の野の花が博士の墓前で揺れています。

たとえば、春ならぺんぺん草と蒲公英とか。
それは、お墓だというのもかまわず、幸せな佇まいをかもし出す光景です。

◎ちなみに、今も、牧野日本植物図鑑―学生版
は安価で購入可能です。
↓こんな表紙。

◎オリジナルの「牧野日本植物図鑑」は、高知県立牧野植物園によって、インターネット版をいつでもみることができます。
すごいっ!そして、ものすごく美しいです
牧野日本植物図鑑インターネット版 – 高知県立牧野植物園

◆今日は、2014年4月24日/旧暦3月25日/弥生乙丑の日