ひと月前の、新暦の5月のゴールデンウイーク。
谷中にある千代紙の老舗・いせ辰を覘いてみたら、くす玉の折り紙細工セットが売られていました。
なかみを出してみれば、美しい千代紙が数種類。
きちんと並べてみれば10種類ほどあって…。
千代紙ってタテヨコの置き方で、ずいぶん模様の印象が違ってみえるんですね。
…なんて発見もする。
この、平らな正方形を、小さな三角形に、折って折って…。
組み立てると、なんと美しいくす玉になります。
すごいぞ日本人!
くす玉は、「薬玉」
現在は、七夕飾りとしてのほうがよく知られていますが、くす玉は、「薬玉」と書いて、もともと端午の節句に縁あるものです。
日本全国の年中行事が解説されている『日本年中行事辞典』(角川書店)にによれば、その使用法と飾り方はこんな風。
「じゃ香、沈香、丁子などの香料を玉にして錦の袋に入れて糸で飾り、造花に菖蒲や蓬などを添えてつけ、五色の糸を長くたれる」
本気で、その名のとおりに「薬」を入れた玉ということなんですね。
端午の節句は、旧暦時代のモノですから、本当は今頃の節句。
「薬玉」自体は、端午の節句とともに中国から伝来したもので、簾や柱にかけ、邪気を避けるまじないとしたのだそうです。
夏が近づき、蒸し暑くなり、さまざまな疫病も流行り始める季節にあって、これを飾って、その厄災から、人々の暮らしを守ろうとしたのです。
薬玉の持つ、雅なルーツ
平安時代の「薬玉」は、宮中内に糸を紡ぐ「糸所(いとどころ)」というセクションに属する女官が造り、5月5日の厄除け飾りとして宮中に奉じたという雅なモノ。
やがて、貴族たちの間でもそれを真似、親しい人への厄除けの贈り物として盛んにやり取りされるようになっていきます。
もちろん、千代紙とかで作られたものじゃあないですよ。
美しい造花と瑞々しい緑で飾られた華やかな意匠で作られて、中に入れられたものを考えれば、芳しい香りも想像できる。
端午の節句が、今のように武家風になったのは、武家が台頭してきた鎌倉時代ぐらいからだといわれますから、それより以前は、そんな美しいものが飾られる雅な雰囲気の行事だったようです。
千代紙で作った薬玉は、その雅な風習を見立てデザインされたもの。
色とりどりに美しく染め上げた和紙や千代紙で華やかに作るのがやはりなんとなく似つかわしく、その由来を知れば、紙を折るにも、いろいろ願いをこめながら取り組むことにもなります。
扱っていたいせ辰にうかがえば、このデザイン自体もずっと昔からあるものなのだそう。
千代紙の薬玉の使い道
千代紙の薬玉は、30枚の正方形の千代紙を淡々と折り、ある法則にのっとって組み合わせただけ。
時間と根気と、ちょっとのコツは必要ですが、あんがいに簡単に創れます。
中はもちろん空洞になりますので、何か軽いものを入れるのも可能。
空き地で蓬を摘んで乾かして、中にちょっと入れてみようかななどと、いまごろ思いはじめました。
薬玉は、端午の節句から飾り始め、9月頃まで飾るという説もあって、こんなにきれいなものを作ってしまったからには、その説を真に受けましょう。
今日から、神棚と定めた場所に飾って、秋まで我が家の厄を祓っていただけないかと思っております。
◆今日は、2014年6月3日/旧暦5月6日/皐月乙巳の日