富士山とともに、江戸東京の富士塚も一斉に開山式です/旧6/5・癸酉

毎年7月1日は本物の富士山とともに、関東に広がる小さな富士山=富士塚も山を開く。
今日は江戸東京のお富士さんのお山開きです

江戸の都市計画の要は、富士

徳川家康による江戸の都市計画の要となったものは、「江戸城」と「霊峰富士」で、そのふたつをつなぐ直線を中心にして通りを作り、町を形作ってゆこうとしました。

だから、江戸を東西に走る通りに立てば、当時は高い建物も無く、間違いなく西方面にはいつも富士山が見える景観があったはずです。

一方それは、富士山がいつも江戸市中を見守っているという構造にもなるわけでした。

江戸はそうゆう特色を持った町でもあって、たぶんそんなことも伏線として、江戸の町に富士信仰が生まれ、庶民レベルに広がっていったのでしょうか。
とにかく当時の富士信仰の隆盛たるや並大抵のものではなかったらしい。

それを物語るのが、いまも都内各地にたくさん残る「富士塚」や「小富士」で、その総数は、40とも50とも。

これも、実際の富士山登拝が難しかったからこそ「それならわが村にも富士山をつくってしまおう」と、庶民レベルで勝手に増殖するように作られていった。
そしてその管理や維持も、近隣の仲間で「富士講」を組織しそこで担ったのだそうです。

一度どこかの富士塚に出会ってしまったら、きっとココロ奪われますよ

「富士塚」などと言われても、見たことがなければ、最初はピンとこないかもしれません。

しかし、一度どこかの富士塚に出会ってしまったら最後、きっとそのユニークなカタチにココロ奪われるヒトは多いんじゃないか。
…と思うのは、その徹底した凝り方です。

富士塚は、ゴツゴツした本物の富士山の溶岩を積み上げ、何合目かの目印や祠などを配し、実際に何も無かったところに富士のミニチュアを作ってしまったものから、古墳や丘を富士と見立て、頂上に富士山信仰のよりどころである浅間神社が祀ったものまでいろいろ。
大きさも千差万別で1~2メートルの小ぶりなものから、実際に人が登れるものまで各種あります。

ひとつふたつと訪ねるたびに、そのいちいち個性的なのが面白いのですが、私がいちばんおすすなのは、下谷の小野照崎神社の富士塚です。

ここにあるのは、国の指定有形民俗文化財のひとつ「下谷富士」

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1年にたった二日、6月30日と7月1日のみ、一般の富士塚登拝が許されます。

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三合目…五合目と記された細い道を登って、頂上からふもとを望むと、それなりに高い場所に来た実感もある。

そんなものを大真面目に作ってしまう江戸人のセンスと実行力…まったくもってすごいものだと思うはずです。

富士塚の開山式も趣向いろいろ

さて、開山祭には、厳かに神事が執り行われ、今なおわずかに残る富士講の方々が白い装束を着て富士塚登拝などもするところもあるそうです。
あるいは縁日が賑々しく行われたり、この日と前後の数日だけ富士塚を登ることができたりもする。
本来ならば、都内のものを全部見てみたい気満々ですが、日程は同じ、数も多すぎ。

神事を見たいというなら、江戸時代にもっとも盛大な開山祭だったといわれる「駒込のお富士さん」の開山式がおススメでしょうか。

開山式の華は6月30日の午前中にスタートする「お富士さんの花万灯巡り」
駒込お富士さんの富士講の方々が、富士神社の氏子エリアを万灯を掲げて巡ります。

(といっても、もう昨日のコト。ご興味があったら来年訪ねてみてください…ってすみませ~ん!)

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サクラの意匠の浴衣が粋ですねぇ!

万灯めぐりは、駒込のお富士さんのふもとから出発し、エリアを一巡したら、若い衆が万灯を掲げて、富士塚をいっきに登る。

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そして、頂上での神事。
その後は、開山式の2日間、万灯が富士塚頂上に飾られます。

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開山式の縁起物は「蛇」

富士山と浅間神社をお参りしたら、開山祭に付き物の縁起物…「蛇」を授与いただくのもその習慣のうち。

「蛇」は水神様である龍の使いでもあるとされ、古来より、水による疫病や水害などの厄災から守ってくれるものだと信じられてきました。
水あたりによる流行り病や、水害、あるいは旱魃など、水由来の災難の多い季節にあたる今頃ならちょうどそんなお守りが必要とされる時期でもあったのでしょう。

富士塚によって、「蛇」の縁起物はさまざまですが、私は、毎年「駒込富士」の麦藁蛇を。

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この蛇は、水神伝説になぞらえ、誰かがふと作った麦藁蛇を富士詣の客に売り、それを家内に祀ったところ、大流行していた疫病の難を逃れられたということがあった。
それがみるみるうちに大きな話題となって、江戸で人気の富士由来の縁起物になったのだと伝えられています。

特に、「駒込富士の麦藁蛇」の意匠は、大干ばつの際に、村人たちが雨乞いをすると、境内のご神木に神竜が舞い降り雨を降らせたという伝承によるものなのだそう。
杉やヒバの枝をご神木に見立て、そこに絡みつきながら降りてくる蛇(龍)のカタチは、麦藁で丁寧に編まれた造詣が美しく、ヒバの葉がみずみずしい。
非常に夏らしいたたずまいのお守りです。

そして、その伝承のご神木は今も境内に残されていて、堂々威容を放ち伝説の信憑性を語っています。

ちなみに、ご利益は、厄除け・疫病除け・水あたり除け・虫除けとまがまがしいものは何でも除けて下さるのだとか。

…といった感じが、江戸東京市中の「お山開き」。

富士のカタチもいろいろ、その縁起物もひとつ水神様であることだけが同じで、その意匠もそれにまつわる伝承も微妙に違うのがまた面白く。

我が家の夏は、こうして毎年、この水神様たちに守られて日々過ごすことになるのです。

◆今日は、2014年7月1日/旧暦6月4日/水無月癸酉の日