二十四節気は「立秋」をとっくに過ぎ、七十二候は「涼風至」。
ですが、いよいよ季節は夏本番の様相。
…つまり暑いです。
そんな中というのに、芙蓉の花が、涼しげな佇まいで咲いています。
「芍薬」「牡丹」「百合」…に「芙蓉」とくれば美人花
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花…と、これは美しいたたずまいの女性を花に喩える言い方ですが、美しい顔立ちの形容を一手に引き受けているのが、この大振りなピンクの花「芙蓉」です。
祖母の世代の会話の中に「あの娘さんは芙蓉の顔だねぇ」と耳にした子供時代があって、それは、言葉の記憶が先で、その芙蓉がこの花のことだと知ったのは大人になってからかもしれません。
そのぐらいに普通の言葉として使われていたものが、今は、その美しい形容のことばも聞かなくなって久しいですね。
芍薬・牡丹・百合の各美人形容花の地位は不動というのに対し、ちょっと不思議な気もしますが、ややカジュアルな栽培のされかたがその一因なんでしょうか?
他の美人花たちは、それ専用の庭園など造られていたりするのに対し、「芙蓉」は、時々、街路樹の下とか公園の植栽などで放任されたようにのびのび育っていることも数多い花。
盛夏から晩夏のころ、街を歩いていれば普通に出会え、「ああ、こんな身近なところによくよく見れば美しいひとがいた」といった感じで咲いています。
街は、いよいよ晩夏の花、芙蓉が咲く季節となりました。
芙蓉の花は、その花の美しさのみならず、みどころは満載、近所で見かけることがあったらよくよく注意しておきましょう。
まずは、開花の前からつぼみの形状が面白い。
少しずつ空気をいれて膨らませる紙風船とか釣鐘を逆さにしたようなカタチにも似ています。
それがある日、いっぱいいっぱいに大きく膨らんで…。
明日には、いっせいに開花しそうですね。
花は、朝咲いて夕方にしぼむ一日花。
なんですが、つぼみを大量につけて、長い期間をかけて順番に次々と咲いてゆくため、かなり詳しく観察しない限りは、そうとあまり気がつきません。
「酔芙蓉」という品種もあるらしい?
花の多くは、直径10~15cmぐらいのうすいピンクですが、時々白い花のものもあり、さらには、さきがけは白く、時間経過とともにピンクに変わってゆくという手の込んだ種類のものもあります。
この色変化するのは、白肌の美しい顔が、お酒を飲んで酔っぱらって顔が赤くなるようだということから「酔芙蓉」などとなずけられていますが、実は、植物辞典の耳学問で、まだ本物を見たことがありません。
毎年、つぼみが膨らみ、もしやコレって「白い芙蓉?」と検討をつければ、しばらくは落ち着かず。
つぼみの膨らんだ部分に、白い花びらみたいなのが見えませんか?
遠回りしてわざわざその花のあたりを通り、やや虎視眈々と眺めつくしてもみます。
が、咲いたらピンクかぁ…。
今年こそはと思いますが、今日時点でまだ「酔芙蓉」にはいまだ出会えず、少し残念な気持ちでおります。
花の時期を過ぎても、まだ少し、気にかけ続けてください。
芙蓉の実は、熟して乾燥すると、大きく裂けて、中の種をあたりに散布し、その生命をつなぎます。
その実の割れたカタチがまたもなかなかバランスの良い美しさにも思え、夏に花が咲いた場所にもう一度ベージュのシックな花を咲かせているかのようなのです。
ちょっと変わったドライフラワーといった趣もあり、花瓶のアレンジにも使えそうだわ…などと、物ほしそうに眺めつつ、そのころには、もう正真正銘の秋が来ている。
今年は、梅雨明けが7月下旬で、8月に入ってからが暑い夏。
それでも、芙蓉が咲き始めれば、もう秋はそこまで来ているはずだ
…と、この美人花は、夏の暑さを乗り切る、よすがのひとつにもなっています。
◆今日は、2014年8月10日/旧暦7月15日/文月癸丑の日