紫式部も実りました…と言いたいですが、これは小紫/10/5=旧9/12・己酉

今時分になると、民家の庭から顔を出し、街路樹の根元にまでこんもり実ってまでいる紫の実。

小紫 寄り

ときどき、これを「紫式部」の札が付いて売られている鉢植えがあるけれどちょっと違う。

「小紫」のまちがいです。
もしかしたら、知らないふりして売っているのかもしれません。

「あら、ことしも紫式部がきれいに実ったわね。」

聞こえてきたのは、ご近所の奥さんたちの立ち話。

と言われては、急ぎ足で駅に向かう耳にもちょっと聞き逃せなく、注意深く聞く。

「これね、あるとき勝手に生えてきてこんなに大きくなったのよぉ」
「あら、うらやましい」

「!?」
…もしやと思って、ちょっと横目で眺めてみます。

小紫 全体

いやいや、奥さん。
気持ちはわかるけど、それは、「小紫」です。

「紫式部」も「小紫」も鳥が好んでついばむ実らしく、確かに鳥の糞などを媒介に繁殖地を広げてゆきます。

だから、もしやと思ったのは、山野に自生する本物の「紫式部」が、遠くこの町中まで運ばれてきた?!と思ったからでした。
けれど、やっぱり、それもご近所の園芸種から運ばれてきたもののようです。

「紫式部」は、もっと背高の木で、葉っぱも紫の実も大きいはず。

そもそも、実のつき方もこれとは違う。
もっと、ばらばらで大胆な感じ。
そして、紫式部は写真のように枝だれはせず、枝先についた実は案外上のほうにあったりもして、鑑賞するにもちょっとみずらいはずです。

探したらありました!→NHKみんなの趣味の園芸のサイト

一方、小柄な樹木で、小さい実を葉っぱの付け根に固まって付け、その重みでか、かすかに枝先が地面にむかって垂れている。

小紫

こうして、「ねえみてみてキレイでしょう!」と言わんばかりなのが「小紫」です。

ああ、なんだか、名前がちゃんと態を現していますね。

なあんて…「そんなのどうでもいいでしょう!」などと、庭の主からお小言を頂戴しそうです。

実は、田舎でその辺に勝手に自生していたなじみのものが、都会に出たら、ちんまり小さくなって売られていてびっくり。
一度は、突っ込みを入れてみたいと思っていた次第。

ご容赦ください。

山野に実ったものが、なぜに「紫式部」と雅な名を持った?

ついでながら、疑問に思うのはそんなこと。
実は、それもやや偶然に近く、特に、平安時代の著名な作家とは縁もゆかりもないようです。

事実は、もっとストレートで単純。

紫色の実をびっしりつけることから「紫」の実がたくさんなる=「敷き実」
→「ムラサキシキミ」と呼ばれていた。
→少しずつなまって…。
→なぜか「ムラサキシキブ」となったとの説が有力。

最後の文字「ミ」が「ブ」に変わって、たった一文字なのに、そのイメージたるや大きな違いですね。

「ムラサキシキミ」と音で聞けば、たぶん「紫式部?!」と連想あるいは聞き間違いもして、ならば、すっきりそう変えたほうがいいんじゃないの?
その実も高貴な紫色だしね

…ってことでしょうか?

そして都会で実るほとんどは、それより小さいから「小紫」あるいは、「小式部」という別名ももち、いろいろ違いを並べ立てましたが、同じく熊蔓科ムラサキシキブ属の植物です。

だから、ただ鑑賞するぐらいなら、ああ、いいのかなぁ。
どっちでも。

秋めいてきた街中には、あちらにもこちらにも、美しい紫の実。
なんとはなしに、辺りを高貴な印象に彩ってもおります。

意図的も勘違いもぜーんぶ含め、それは「紫式部」という名前のおかげかもあるかもしれない。

たぶんそうです。

ならば、そんなまちがい、ごくごく小さなことなのかもしれませんね。

◆今日は、2014年10月5日/旧暦9月12日/長月己酉の日
◆日の出5時39分 日の入17時20分/月の出15時07分 月の入1時38分