半沢直樹シリーズ第四弾『銀翼のイカロス』を読了。
視聴率を稼いで続編が望まれるTVドラマのほうはなかなか始まらないけれど、かえって、読書中に主人公に堺正人さんのキャラが被らなくてよかったかもとか思って読み進む。
相変わらずの勧善懲悪ドラマは、主人公半沢直樹のヒーローぶりとともに健在。
しかし、こうして世間の半沢直樹フィーバーが落ち着いてから読めば、彼は優秀だけど、ごく普通のまっとうなバンカー。
そこに「このヒト銀行員としてどうなのかしら?」としか思えない、私利私欲&権力欲にまみれ、本来のバンカーのシゴトそっちのけで足の引っ張り合いばかりやってるヒトが有象無象集まってくる。
だから、普通のまっとうが、やけにヒーローじみて見えちゃうんだよね。
っていっても、会社や役所などの組織って、今は、そんな構造なんだろう。
(ただし、目立つ巨悪はそうそういなくて、目立たない小物悪の集合体って感じと推測。)
かつてのように、経済が右肩上がりじゃなくなれば、以前は簡単に手にできた収入も権力も、奪い合わなきゃ以前と同じ分量は手に入らない。
だから、ちゃんとシゴトをするのはさておいて、意味不明の奪い合いという地獄にはまってゆくんでしょうね…。
でもそれじゃシゴトするのが全然楽しくないよねぇ。
そもそも、以前と同じ(いささか古い価値観の)豊かさをいつまで追い求めているのかしら?
働く意味をもう少し立ち止まって考えてみてはどうですか?
…って、小説の本筋からはズレズレだけど、読後は、スカッとしつつ、考えるのはそんなことだったりします。
この小説。
さて、半沢直樹が立ち向かう今回の敵は、政界。
いゃあ、そうとう大きく出てきましたね。
具体的には、ちょっと過去形になっちゃったけど、民主党政権下の国土交通大臣が、法的根拠も無く泥縄式で作って、結果を残さず果てた「JAL再生タスクフォース」が敵のモデル。
物語では、日本航空(JAL)=帝都航空、民主党=進政党、自民党=憲民党となっているけど、かなりの部分が実話に基づいているかのようで、そこがまずもって今までにないスタイルかと。
リアル社会で、自民党から民主党へと政権交代した直後。
自民党政権下でまとめられた「JAL再建策」が、動き始めようとした矢先に、それが民主党による国土交通大臣により白紙撤回。
代わりに作られたのが「JAL再生タスクフォース」だった。
ニュースで知った側には、政権をとった民主党が「自民党の関与した再生計画なんか怪しからん」的に思ってやってるようにも見えたけど、新政権への期待は大きかったから、まあよかろうと思った。
小説では、そのあたりを徹底的に糾弾する内容になっている。
まあ、物語が、タスクフォースvs半沢直樹とその仲間だからね。
しかも、タスクフォース側に絡む政治家とか事業再生のプロといわれた弁護士などが、銀行内で半沢直樹の足を引っ張る側と大きく関係しているので、その複雑さが、ますます話を面白くしてもいる。
けど、読者としては、といった読み物として楽しみつつも、真に受けちゃあけないよとも思う。
JAL再生関連の本はたくさん出版されているので、そちらも読んでみようかな。
…と、つまり、この物語は、JALの破たんと再生までの混乱と、今のV字回復ぶりを「そういえば、ホントはどうだったの?」と思わせてくれる副次効果までもっているというわけ。
あっ、またも話がズレました(笑)
物語は、事実に沿って展開させると、ココまで面白くなるとはね
つまり、「JAL再生タスクフォース」が巻き起こした混乱と、銀行の大反対によるの終焉までの事実の裏側に、“ひとり半沢直樹の活躍があった!”的に読めてしまう面白さ。
いや物語の方は、「帝都航空再生タスクフォース」だし、現実のほうには、たっひとりのヒーローなんていなかったでしょうけどね。
でもなぁ、その後、JALが…じゃなくて、帝都航空の再建が企業再生支援機構に引き継がれるところまで現実とそっくりなんですもの、そのように妄想してしまうのよねぇ。
そして、その“半沢直樹の活躍”の中味として、物語後半の大きな流れとして登場するのは、政治家と銀行のスキャンダル。
地方空港行政による錬金術やら、銀行のカネ隠しのルートやら…。
もうこれでもかっと、過去の悪知恵が、明かされてゆく経緯。
物語の設定がココまでおおごとになると、もはや銀行ドラマって感じじゃあないです。
ジャーナリストが取材して書いた、「政治スキャンダルを暴きました」的内容のドキュメンタリー的要素満載。
ああ、ってことで、事実としてあったコトの裏側に興味を持つほどに面白かった!
普通ならば、ココで、次回作を楽しみにしつつ、過去の作品で未読のモノに食指が動くはずなんですが、今の私の興味は、JALを取り巻く事実。
せめて、本気でジャーナリストの著作の一冊でも読まないと、事実とフィクションを混同しそうな感じでもあります。
つまり、面白すぎるってフィクションってのは罪ですねぇ。