『パリのすてきなおじさん』。おしゃれな本だ!と手に取って、その深く広い内容に、けっきょく息を詰めるように読むはめになる。

パリのすてきなおじさん』を、息を詰めるように読み、読了。

ホ~ッと、静かに呼吸して、なんか、息をするのを忘れてたかも?
と思う(←まさか😊)。

パリのすてきなおじさん

だってね。
本屋で、洒落た装幀が際立っていて「わっ!おしゃれな本💛」と手に取った。
イラストは、生き生きとした表情の人物が、衣服などのディテールも細かく描かれていて、私好み。

次に、目次にパラリと目を通し「おしゃれなおじさん」「アートなおじさん」「おいしいおじさん」…ハハ~ん。

街のおしゃれなおじさまたちを介して、パリをガイドしてくれるんだね。
って思ったよ。

描かれた世界は、深く、広く。
読者は、パリから世界の縮図を眺めることになった。

本書は、作家&イラストレーターの金井真紀さんと、パリ在住40年のジャーナリスト広岡裕児氏の二人三脚で、パリの「すてきなおじさん」に突撃取材。
…たぶん。
というのも、さって読み取る限りは、かなり行き当たりばったりのヤマ感のみで、人選してるように見えた。

そうして、出会って話を聞いたパリのおじさんは67人だったそう。
そのうち40人が本書に登場し、それは驚くべきインタビュー集となっている。

なにに驚く?

まずは、パリという国の多様性。
著者の二人が、このインタビューのために費やした時間はたった2週間。
ただそれだけの日々で、出逢えたおじさんたちのルーツ、アイデンティティ、シゴト、ライフスタイルetc…バリエーションの豊富さたるや!
パリッて相当に人種の坩堝だったんだ(◎_◎;)。

そして昨今の難民問題やテロ事件。
移民の歴史から派生する、差別の歴史…読み進むうち、自分が知らなかったことの多さに眩暈すら感じるよ。

パリのおじさんのコトバは、爽やかな風のごとくである。
読者のココロの栄養にもなるだろう。

インタビューで救い上げたおじさんたちのコトバは秀逸。
パリの坩堝と苦い歴史や事件があってなお、いやだからこそ煌いていた。

だもんだから、読者(←私)はせっせと付箋と格闘することになる。

パリのすてきなおじさん

ああぁ。
本は読んで
⇒面白かったらこのブログでレビューして
⇒処分。
…と、溜まりまくった本の山見て決めたばかりだというのに、もうこうなりゃ処分不可能。
この一冊は、我が書棚のとっておきの場所(=目立つ、日常的に取り出しやすい)に置き、アトランダムに付箋のページ開いて再読するのである。

たとえば…。

今回は各章のタイトルが「パリのすてきなおじさん」たちが著者の前で発した一言になっている。

たとえば、私のお気に入りのコトバ。

・西洋では白と黒は対立する概念。白は善、黒は悪。白は純粋、黒は不純。(略)そして肌の色の問題にもつながる。
それに比べて東洋はどお?白と黒は補完しあう関係だ。(略)白い紙と黒い墨でできている書道は実に素晴らしい。

(p10~11)絵描きのイヴ・ロージン氏のコトバ)

・二分考えれば済むことを、みんな大げさに考え過ぎだよ
(p19/mujiで働く。10着しか服を持たない男。セバスチャン・ドダール氏のコトバ)

・たとえ科学者にならなくても、数学と科学を学ぶことは人生の役に立つ
(p42/科学書専門店の店主。ロラン・ド・ブリュイーヌ氏のコトバ)

・芸術は経済に蹂躙された。百万ユーロで売れれば傑作だということになる。こんなことをはじめたのはピカソなんです。(略)出世欲の強い、まったく嫌な奴でした。だからせいこうしたんでしょう。(p66)
・人生を学んでいるあいだに手遅れになる。だから大事なことを後回しにしてはいけない。人生とはそうゆうもの。
(P67/モンマルトルの老画家アンリ・ランディエ)

・ほとんどの問題は、他者を尊重しないから起こる。
(p86/老舗クスクス屋の店主 ファイサル・アベス)

・生まれ育った国にはもう帰らない。だからこそぼくは母国語を学ぶ。
(P98/カレー屋街のタミル人 ジヴァケルマール・シタムパラナデラジェン氏)

・差別もテロもずーっと昔からある。これからもなくならんだろう。しかし、わしやあんたのような勇敢な人間もいる。人間を好きにならなければいかん。

(P143/毎日、競馬場に通う人。ムフーブ・モクヌレ氏。92歳!)

・(パリの人間は親切か?と聞かれて)その質問もナンセンスなんですよね。どこにだって、いいやつもいるしバカもいるでしょう。
(P156/西アフリカ・マリからの出稼ぎ、ビル受付のコンシェルジェ シビー・ムハンマドウ氏)

・静かな心でいれば、強くなれる。(略)内面の平和がいちばん力を持つんじゃないでしょうか。理想の国とはなんだろうと考えると
(p172/中国出身の出版人。朱人来ジュウ・レン・ライ氏)

・人間には、人を憎む気持ちがある。権力者がそれを奨励する。(略)だけど、人は変わることができる。変わらなければいけない。
(p199/75年前「隠れた子ども」だった人。ロベール・フランク)

「隠れた子ども」とは、ナチスのユダヤ弾圧から、名前・経歴を変えて生き延びたユダヤ人の子どものこと。

そして、このロベールおじさんの語る物語を電車の中で読んでしまった私。
涙が止まらなくなって難儀しました。

・この国に来て、わたしは学問の意味を知りました。なぜ学ぶのか。博士になるためではない。世界を理解するため、自分で考えるためです
(p222/イラクから逃げて来たクルド人。レワン・ハッサン氏)

このコトバを巡る話は、パリを中心とした、辛く悲しい現代史でもあり、そして、そこを乗り越えてきた人々の物語でもあった。
そして、インタビューを担当した金子さんの思いを語るコトバもまた、素朴にしてシンプル。
それもまた素晴らしいのである。

すてきなおじさんの話で、既存の価値観に風穴を開けてもらおう。

本書は、そんな目論見で企画された。

もちろん、バシッバシッと風穴を開けられた私としてはもうこうしちゃおれない感じ。

そして、もっと世界を学ばなくちゃ、知らなくちゃと思う。
それは、世界と自分に対して、フェアであるために、タフであるために、リベラルな立ち位置でいられるために。

そんな風に思いつつ、まずは地中海でいちばん古い、ベルベル人のコトバ。そのアルファベットのカタチをネットで探してみたりする。
世界は、知らないことで満ち溢れて、楽しすぎる。

⇓この本。黄色い帯がついていて、栞代わりにしてるうちなくす。
あとで知ったんですが、その帯が4種類あるんだって?うそっ、私のは表紙と同じおじさんだったよ。

『パリのすてきなおじさん』金井真紀著 広岡裕児監修 (柏書房)