畑野智美作『若葉荘の暮らし』を読了。
本の表紙を飾るイラストと「若葉荘」というアパートの名前に惹かれ手に取った。
若葉荘は「40歳以上独身女性限定のシェアハウス」というところにも珍しさ(と、実は、一末の不安も…)を感じたものの、全体を通して、穏やかな日々が綴られてゆくのだろうなぁと期待した。
しかし、読み始めたらちょっと想像と違った面白さと興味深さ。
穏やかではあるけれど、物語は、この日本社会にある多くの問題を孕み、読者は、時々そこで立ち止まったり、考え込んだり、少し苦しくなったり。
あるいは、時々、うらやましくもなったり、希望のしっぽを見つけたりして読み進むことになるのである。
物語は、コロナ禍の日々を生きる、40代以上世代の独身女性たちの話。
主人公・望月ミチルは、就職氷河期世代の40代。
派遣社員を経て、洋食屋アネモネのホールスタッフのアルバイトで生計を立てていた。
しかし、そこに襲い掛かるコロナ禍。
外出自粛、営業自粛対策により、多くの飲食店が被害をこうむり、そこで時給で働く人々も大幅な収入減となった。
そして何よりも、他者との関りがなくなる孤独な日々が耐えられない…。
収入減による生活苦と孤独…そんな苦しい日々は、読み手のリアルな暮らしにもあって、主人公が、マンションから家賃の安く、同居者がいるシェアハウス「若葉荘」へと移り住むくだりに、他人事ながらもかなり安心した記憶。
若葉荘に住むのは、40代、50代、60代以上と様々に時代に翻弄されながらも一生懸命に生きてきた独身女性たち。
だからか、他者のココロや暮らしに土足でずかずか入ってこない穏やかな暮らしがそこにはあって、一息つける日々が描かれて、ホッとしながら読み進む。
やがて、つまびらかになる、同居人たちのプロフィール。
その一人一人の生きざまが明かされてゆくうちに、血縁はないながらも、新しい家族のカタチを垣間見えるようにもなる不思議。
そして、ささやかに希望あるエンディング。
「若葉荘の暮らし」をモデルケースとして、似たスタイルのシェアハウスを増やしていけないだろうかという、日本社会の問題に対して、ひとつの解決案を提示するようにして物語は終わる。
物語から離れて冷静になれば、ある程度年齢を重ねた他人同士が、家族のように暮らすむずかしさはあるだろう。そんな風に思いつつも、そのその難しさを含んで描かれた続きを読みたいなぁと思う。
↓ 第一印象とは全然違う物語だったけれど、結局、かなり夢中になって読んだのである。
◆今日は、2023年2月11日/旧暦1月21日/睦月庚子の日/月齢20.3
◆日の出6時33分 日の入17時18分/月の出22時28分 月の入9時14分