草市というネーミングにまず惹かれ、そこに売られるモノにまた惹かれる。東京はもう盆の入りです/旧6/16・戊子

6月晦日の「夏越の祓え」が済むやいなやという感じで、花屋や八百屋、そしてスーパーにも店先では、いちばん目立つところにこんなもの。

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お盆の精霊棚に飾る、お供えの野菜や果物です。

それを小さな籠にレイアウトして、けっこう可愛い。
…籠がプラスチックってのがやや惜しいけどね。

私としては、自然物で編んだ籠希望!

写真を撮らせていただいた、この店は、ごくごくふつうの八百屋さんながらも、ほかに、お供えを並べる敷物としての「蓮の葉」とか「真筵(まこも)」、迎え火・送り火をたく「麻幹(おがら)」、藁で編んだ馬&牛なんかもきちんと揃っていて侮れない。

眺めているうちに、そのまま帰りがたくなってしばし…。

盆用品に見とれる変な客の横では、並ではない会話が繰り広がっています。

東京のお盆は新暦盆。

東京地方のご先祖様たちは、盆の入りの7月13日の迎え火を目印に帰っていらして、14日・15日と現世に滞在し、16日は送り火に見送られてお帰りになる。

だから、現世の人々は、その準備で余念がない。

「茄子と胡瓜をいただこうかな。馬と牛用にね」
とどこかのおばさま。

一方、八百屋のご主人を見れば、やにわに、茄子と胡瓜の一山籠をひっくり返したり、奥のダンボールの中を覗いたり…とやや不審行動。
やがて、堂々太って曲がった胡瓜を一本とりだして。

「奥さん。胡瓜は、曲がったのでないと馬にならないから、これサービスね。」
と、胡瓜の一山に曲がったそれを一本加えた。

茄子のほうも抜かりなく、のんびりゆったり帰ってゆく牛のように太った立派な一山を見繕う。

「はい、両方で、320万円ねぇ。まいどぉ~」って、この八百屋のご主人、いつも単位は100万円、レートは、100万円=100円なんですが(笑)こう言われると景気がいい。

ご主人! 高価ご先祖様も喜びそうだよ。

江戸東京には、7月12日夜から翌日に、盂蘭盆に供える草花や飾り物などを売る「草市」があった

その市は、江戸時代がもっとも盛んだったのが、明治維新後数が減り、それでも昭和の初期ぐらいの最近まであって、それを「草市」と呼んでいたらしい。

いまでも、月島のあたりとか人形町とかで細々つづいていると聞きますが、なんとなく町内のお祭りといった感じに変化して、残っているのは「草市」という名前のみみたいです。

ということで、江戸東京と続いた年中行事をまとめた書『東京年中行事 (2)』若月紫蘭 ワイド版東洋文庫 (121))などを紐解いてみましょう。

↓こんな地味な本ですが、中味はほんとに面白いんですよ~。明治時代の東京の草市の売物の詳しい記述があって、それがまた興味深いものです。(つまり、昔のヒトの暮らし方が面白いのかな?)

少し引用してみましょうか。

「長いものでは、笹のついた一間ばかりの小竹、同じ長さ位の皮を剥き取った苧殻、これは一把と言うのに四、五本ずつ束ねてある。

筵にあんだ横が二尺五寸に巾が二尺位の真菰などを始めとして、
蓮の葉、鼠尾草(みそはぎ)の小束、
長さ七、八寸の真菰で作った馬、茄子の牛、
枝つきの白茄子、
長さ二、三寸を頭のこれも枝つきの瓢箪、
根も枝もついた千成鬼灯、
槍ん棒と言っている蒲の穂、粟、稗、鬼灯その他の水草などの束、
玉蜀黍、青葡萄、枝付の小柿、梨、林檎、

縦三寸横二尺位に杉の葉を平たく並べて垣形に設(しつ)らえたませがき
などであって、これらは大抵同じ店にて売っておれど、色々の花物、蓮華をかいた三寸立方位な紙張りの蓮華万燈及び土器、蓮台、平たい白木のお盆などは又別々の店で売っている。」
(P53・七月暦「草市」の項より)

うーん。
充実した品揃えですね。

「笹のついた小竹」は精霊棚の両脇に飾るもの、「芋殻」は迎え火に焚くものです。

真菰を精霊棚に敷いて、その上に、お仏壇からお位牌を移し、そのお位牌の前に野菜や果物、穀物なんかをお供えし、馬や茄子の牛、ひょうたんとかほおずきなんかを飾ります。

年に1度のご先祖様の里帰りですから、シックな中にもやはり華やかさやにぎやかさがあって、それをひとつひとつ買い求め飾り付けるのも楽しそうです。

ああ、できればイラスト入りで見せてほしい。

仕方ないので、目をつぶって勝手にその草市の様子を想像して楽しみます。

そして、その露店主と客のやり取りの中には、先の八百屋のような会話…だれもがお盆という行事をココロから大切に思っているようなやりとりが無数に交わされているのでしょうね。

「草市」。植物好きの私にとっては、その名前からして惹かれまくるものあり。

「草」と選んだネーミングも夏らしくてよし。
加えて、そこで売っていたものが、上記の八百屋のかわいらしい盆用品の数々…みたいな感じだったんですよね。
しかも、プラスチックやビニールのない時代。

売られるものは、自然物を使って、素朴ながらも丁寧に作られ考えられたものだったはず。

そこに、祖先を思う心づかいがやり取りされる。

盂蘭盆会は、ご先祖様がお帰りになる厳かな日々でもあるというのに、それを迎える精霊棚は、木とか草とか紙とかささやかで可愛らしいもので出来ていて、そこに野菜で作った馬とか牛とかのユーモア。

この「ささやか」で「可愛らしい」そしてちょっとだけ「ユーモア」が、日本なんじゃないかなぁ…と近頃つくづくと、少し日本人としての矜持をもちつつ思うのです

さて、最後に、現代の盆のお供えも観察しましょうか

いちばん上の写真のモノ。
何が入っているのか近づいて(拡大して・笑)よーく見てみましょう。
(ちょっとビニールじゃまですが・笑)

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茄子にピーマン、サツマイモ、梨、葡萄、砂糖で作った盆菓子(蓮のカタチです!)に、赤いほおずきのアクセント、それらを小さな籠にレイアウトして、可愛い度数が一段アップしたものになっておりますねぇ~(^^♪。

ああ、そうとう長々と眺めてしまいました。

しばし盆用品のあたりにたたずむ妖しい人(=私)は、田舎育ち。
実家のお盆は月遅れですから、その可愛らしさ、素朴な意匠に物欲が刺激されたとしても、故郷のお盆までは、ただ見るだけでじっと我慢我慢です。

◆今日は、2014年7月12日/旧暦6月16日/水無月戊子の日/今日は満月、月の出:18:38