この本の装丁のように爽やかで優しいまま始まって終わりながらも、静かに衝撃的な事実を描く『ナモナキラクエン』

「楽園の話を、聞いてくれないか」とそういったっきり、床に倒れてそのまま逝ってしまった父。

あとには、母親の違う子どもたち4人が残された。

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なになに?
何の本?
…ってすみません。

裏表紙のイラストがあんまりにも可愛かったんで、先に出しちゃいました(笑)。たぶん、主人公たちの履いている、夏の靴やサンダル…のイラスト。

相変わらずの、小路幸也作品・発掘本(=好きな作家の本なのに未読だった本)シリーズです。

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タイトルは、ナモナキラクエン

逝った父親の最後のコトバからなのか、ちょっと意味深な響きを持つ。

意味深といえば、山(さん)、紫(ゆかり)、水(すい)、明(めい)という、兄弟姉妹たちの名前自体もそう。
「山紫水明」って、ノンフィクションの都合よさで、きれいに名前をつけたよなぁ…なんて、作家の単なるディテール的なこだわりだろうなぁと思っていたら、この名前の付け方が、なんか、ちょっと重めのエンディングにつながった。

物語は、父・向井志郎の死と、彼が残した一通の手紙が発端となって、兄弟姉妹が、それぞれ4人の母親に会いに行く夏の旅という体裁で綴られてゆく。
まずは、この兄弟姉妹のキャラクターが、どれも瑞々しく、そこが楽しく、読者は、気楽な旅の同行者となる。
手紙には、「もしかしたら、逢えばつらい思いをするかもしれない」と書かれていたけど、幸運なコトに、母親たちはいづれも歓迎してくれる旅。

…しかし、その出会いのストーリーの端々に、密かに埋め込まれたような違和感。
気軽な旅を続けながらも、何か大きな落とし穴でも待ち受けているような気分になってゆくのである。

そして…。

いろんな手法で物語を描き、時々、作家はひとりではなく複数いるんじゃあないの?
と思えるほどに、小路幸也氏の物語手法の引き出しは広く深いモノと思うけど、そこに流れるテーマはひとつ「血縁を超えた家族」…かな。

湘南あたりの海辺の、趣味のいい住い。
伝説の雑誌編集者だったといわれる父親。
まっすぐで純粋なこどもたちのキャラクター。
かれらを見守る、海のように器の深いオトナたち。

…と、爽やかな要素を盛り込んで描かれた、いつもとおなじテーマの物語は、けっこう衝撃的な真実を見せます。
雰囲気は、最後まで爽やかで優しいままなのに、いちばん重いテーマを描いた一冊かもしれない。

「恨むな。
恨むことは前へ進むエネルギーを奪う。」

父・向井志郎が、物語中で子どもたちに語ったコトバ。
ああ、いいこと言うなぁと思いながら読み進めていたけれど、それがエンディングに来て、痛いほどにココロに残る話となりました。

↓あっさり文庫も出てます。装丁が、単行本のほうがいいけど。