江戸からつづく庭園での「虫聴きの会」へいきませんか?/旧8/4・辛未

なんか急に涼しくなりました。

天気予報は、9月に入ればまた暑くなるといっていますが、この涼しい一時を狙ったかのように、虫の声?

夕暮れ近くに、家路を急ぐその耳にはっきり聴こえてきたのは、やっぱり秋の虫たちの鳴き声です。

立ち止まって耳をすますと、空き地の中から、木々が茂った民家の庭から…かすかに聴こえてくるのは、リィリィリィリィリィと小刻みに鳴くコオロギはもちろん、リーンリーンと鈴虫もいるような。
おやおや珍しいスイーッチョン スーッチョンと鳴く声も聴こえてきました、ウマオイなんかもいそうです。

えっ!よく聴こえないって?

上野の不忍池、王子の飛鳥山、谷中の道灌山あたりならどうか?

江戸では、かつて、これらが虫聴きの三大名所

東都歳時記 2』 (東洋文庫)(P196 七月の項…旧暦7月ですが)によれば楽しむ時期は<夏の末秋の始より>とあり、ちょうど今頃。

そして、各々の名所にはもっと詳しい記載があって、
<眞崎、隅田川東岸、王子辺、道灌山、飛島山辺、(道灌山は松虫多く、飛島山は鈴虫多し)、三河島辺、御茶ノ水、広尾の原、関口、根岸、浅草田圃>
…だったそうです。

「広尾の原」とか「浅草の田圃」とか…当時は、ずいぶん広範囲に虫聴きに適した原っぱやら田圃やらが広がっていたことをうかがわせます。
が、そこらも、いまや都会の真っ只中。
虫…いないだろうなぁ…。

しかし、先の三大名所・上野の不忍池、王子の飛鳥山、谷中の道灌山ならば、公園として草草の生えるスペースが残り、秋の虫も健在。
不忍の池の草むら
たとえば、不忍の池沿いのこんな草むら…。

夕暮れ近いころにちょっと遠回りして「虫聴き」と洒落てみれば、ちゃんと虫の声を聴くコトができます。

向島の百花園の虫聴きの会なら、確実ですよ!

もっと、風情ある楽しみ方をしたいなら、ココ。
江戸の三大名所からは、ややはずれた場所ではありますが、江戸時代からずっと続く庭園・向島の百花園が最適です。

向島百花園

百花園では、平成の現代にも「虫聴きの会」が開かれます。

2014年の今年は、8月28日から31日まで

いつもは17時の閉園時間を21時(入園は20時30分)まで伸ばし、虫の声を楽しむためのもようしがさまざま用意されているようですよ→向島百花園HP「虫ききの会 創設210周年 伝統行事」

百花園「虫聴の会」は、園の創始者鞠塢(きくう)の追善供養

そもそもこの「虫聴の会」は、園を開いた、江戸の商人にして文人であった佐原鞠塢(さはらきくう)の追善供養としてはじめたものなんだそうです。
仏教の不殺生の教えを由来に、捕らえた生き物を山や野、池などに放ち供養する「放生会」。
多くは、旧暦8月15日にその行事がおこなわれるものですが、それに習い、天保2年8月29日に亡くなった鞠塢を追善するため、ある年、縁者が園内に虫を放ったことが始まりなんだとか。
それが、明治終わりごろに、「虫はなち会」というカタチで一般にも開放されて、現在のような夕涼みをしながら虫の音を楽しむかたちとなりました。
放虫用のかご

で、こんな風に、来園者用に虫の入ったかごが用意されたりするのです(日時は要確認)。

「聴蟲(むしきき)」は、実は、平安時代から続く行事

平安時代の貴族の貴族の館では、わざわざ野山から虫捕まえてきたて、庭に放ち、夜風に吹かれながら虫の音色を楽しんだそうです。
…ああ、雅で涼しげな話ですね。

ちなみに、『源氏物語』などを紐解けば、ちゃんと「鈴虫巻」という物語があって、そこには、出家してしまった若き妻・女三宮のために、光源氏は屋敷の庭にわざわざ「草原」を造らせ、虫を放つシーンがあります。

<この野原に虫どもを放たせなさって、風が少し涼しくなってきた夕暮に、たびたびお越しになっては、虫の音を聴くふりをなさって、今でも断ちがたい思いのほどを申し上げ悩ましなさるので、「いつものお心癖はとんでもないことになろう」 と、一途に厄介なことにお思い申し上げていらっしゃった。>

光源氏はもう50代、物語は最晩年です。

老境に入り静かに虫聴きを楽しもうとしたのかと思えばさにあらずで、心が離れ出家までしてしまった若き妻・女三宮に、光源氏は未練をもって、虫聴きをするふりをして通っていたというお話。

ああーやれやれといった感じです(笑)。

が、丹精に手入れをしていただろう庭園を、一部とはいえ、虫を放つために草っぱらにしてしまうって…そんな伊達酔狂はないとしても、当時の風俗の参考書とも言われる「源氏物語」です。
女たらしの光源氏の「誘惑アイテム」として登場させたからには、この「虫聴き」は、当時、かなりの先端の旬の遊びだったのかもしれませんね。

やがて、貴族の雅な遊びは、武家にも継承されてゆく。

そして、他の行事や風習と同じく、武家に奉公した女たち経由で町人にひろがってゆきます。

虫聴きも、その例にもれず、江戸人たちによって庶民の娯楽の地位を固めていったモノの一つでした。

百花園の中まで都会の喧騒が入ってこないというのが魅力

さて、百花園に話をもどしましょう。

ココは、決して広くない庭園ですが、植えられている草木は非常に多く、もうさまざまな秋草がつぼみをつけて、ススキも茂り、虫たちが気持ちよさそうに鳴いております。

虫聴き

江戸人たちが、庶民に広め、洗練させて平成の今につないだ、ささやかだけど、ほんとに贅沢な遊びです。

◆今日は、2014年8月28日/旧暦8月4日/葉月辛未の日