<秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花 萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝顔の花>
…の山上憶良バージョンの秋の七草。
朝顔(桔梗)&女郎花に続きまして、今日は、「藤袴(フジバカマ)」の様子もトクとお見せいたしましょう。
この花、近くで見ると、けっこう個性的な花なのに、遠目で見ると、もうただひたすらに大柄な雑草野草でしかない。
灯籠の右側一帯に伸びまくった草が、そのフジバカマなのですが、その意外性が面白い花。
調べてみれば、さらなるギャップが存在し、興味深さでは、秋の七草の筆頭かもしれません。
源氏物語には、この花の名を冠した「藤袴の巻」という物語
意外性その1といえば、もちろん、こんな雑草野草然としたものが、和歌に詠まれ、数ある秋の花々の中、七つの枠にまで選らばれたということですが。
それにとどまることなく、雅な『源氏物語』の章タイトルにまでなっているコト。
っーことでその「藤袴の巻」。
源氏の息子夕霧の君が、「おなじ野の露にやつるる藤袴(ふぢばかま)哀れはかけよかごとばかりも」と歌にまで詠む。
意味は、<あなたと同じ野原で露にぬれている藤袴です。かわいそうだといって同情の言葉をかけてやってくださいませ>って、やや哀れを装った口説樹文句なんですがねぇ。
口説いた相手は、同じ祖母・大宮の喪に服している美しい従姉妹の玉鬘。
実は、父光源氏の使者として訪れたものが、御簾の下から、本物の藤袴を差し出して詠んだというから用意がいいです。
屋敷の庭か近くの野辺にでも咲いていたのでしょうか。
ちなみに、歌へのかえしは
「たづぬるに 遥けき野辺の露ならば うす紫や かごとならまし」
<たずねてみて はるか遠い野辺の露というのであれば、私達の縁もうすいものなのでしょう>
…とさらっと、袖にされてしまった?
さあ、どおなる夕霧の恋…てな感じです。
実は、「藤袴」は、秋の七草唯一の外来種
藤袴は、こうして源氏物語にも堂々登場し、巻のタイトルにまで使われるほどだというのに、実は山上憶良が詠んだ秋の七草の中、唯一の外来帰化植物というのが、意外性その2。
奈良時代に唐から薬草として渡ってきたものが野生化し、平安時代には、こうして、くどき文句に使われたりもするほど一般化した。
というより、唐様は当時の人々にとってはニューウェイブ。
紫式部さんがこんなシーンに使ったとすると、藤袴は流行の草花だったのかもしれません。
…なんてちょっとうがちすぎでしょうか?
当時は、漢名の蘭草から、藤袴の花を「蘭の花」とも呼んで香料などにもつかったそうです。
外来種のステロタイプから外れて、もはや絶滅危惧種でもある?
意外性その3は、外来種ならば、一般的な感覚では、原産種を駆逐する勢いで繁殖するのかと思いきや、この藤袴はそうはいかないみたい。
実は、現代では絶滅危惧種にも数えられているそうなんですっ!
っーことで、もちろん、その辺の土手や空き地に生えることなく、今は、植物園とか庭園などに出向かなければ眺めることもできません。
でも、向島の百花園のそれは、もりもり元気に伸び放題な感じ。
たくさんあるので、つぼみの頃から…。
つぼみが、ほんのり淡い紫を帯びて可憐な感じとなって、いよいよ咲はじめ。
ですが、咲き出すと、なんだかもさもさと木綿糸が絡まったような感じにも見え、これを美しい花と言うにはやや意見が分かれるところだろうかと思うたたずまいになります。
あえて言えば、この変化も意外性のひとつかな?その4っ!!
で、香料だったっけ…と、花に葉っぱに鼻を近づけかいでみますが、うーん、花は無臭で、葉っぱのほうはやや青臭い。
あらら間違ったのかな、種類違いかと調べてみれば、葉や茎を乾燥させると、桜餅の葉と似た匂いになるんだそうですよ!
へぇ~!!(とこれも意外性その…ええっと何個目かな?その5ですね。)
小さな匂い袋に入れて、十二単に忍ばせたんでしょうかね…。
絶滅危惧種とか言いながらも、花を育てようと思えば、元気に育ちもするらしく。
いろいろ調べてゆけば、新たに原種を植えて育てる試みなどもなされたようです。
さすが、万葉集に源氏物語のお墨付きの花ですね。
たしかにこの花、植物園などの管理された場所ではなくて、河川や野辺に暢気に咲いているのが似合う佇まい。
いつか、勝手に群生して咲く様子を眺めてみたい、そんな風にも思いますね。
◆今日は、2014年9月6日/旧暦8月13日/葉月庚辰の日/日の出:5:16入:18:02/月の出:15:46入:1:38